タイトル

パパの秘密 B

翌朝、ベッドで目覚めた碧は暫く天井をジッと見つめたままだった。
あの「おばさん」、自分の記憶の中にいる人と
ツインタイムで見た写真の人は、きっと同じだ。
でも・・・碧はまだ何か自分が知っていることがありそうな気がした。
それは「 かあさん 」 と、呼んだあの声。
ずっと前から聞き慣れているような、安堵感のある声だったのだ。
あの声をきっと知っている・・・

そして悟は、ほとんど酔いつぶれたおじさんが
あの小屋のおじいさんだと言った。
と言うことは・・・あのセピア色の写真のおばさんは   
おじいさんの奥さんで、碧を膝に抱いてくれた人?!
と言うことは、私のおばあさんで・・・
もしかしたら、あのおじさんは私のおじいさん?!

バラバラのピースが少しずつ、あるべき場所に埋まって形にはなってくるけれど
何故かこれ以上は先に進めない。
思い切って、ママに尋ねてみよう。
そう、碧は決心した。

夕方、学校から戻ってくると 茜はテレビで「ちびまる子ちゃん」を見ていた。
夕食の準備に忙しいママに
「 何か手伝おうか?! 」と碧が言った。
「 アラッ、珍しいことがあるのね どうしたの?! 何か願い事? 」
ママはすっかり碧の心を見透かしていた。
「 エッ? ええ、まぁね。 」
「 おじいちゃんのこと? 」   
先にママがそう言った
きっとママは碧が聞いてくるのを待っていたんだ。
「 お夕食が済んだら、茜も一緒にお茶でも飲みましょ。」
そう言ってママは碧の手にリンゴと包丁を持たせた。
「 サラダの飾りにリンゴのうさちゃん作ってね。」

それから数時間後、夕食の片付けも済んでパパが帰るまでは一時間ぐらいある。
ママは碧達にオレンジジュース、自分に紅茶を入れてテーブルに座った
「 少し長い話しになるわね。 でも、それは全部じゃ無いの。
ママが知っているだけのお話よ。」
そう断って、ママは語り始めた。
茜はまるで冒険話を聞くみたいに目を輝かせていた。

「 ママはね、本当はおじいちゃんのことはよく知らないの。
パパと結婚して碧や茜が生まれて1年に何回かは帰っていたわ。
でも、おじいちゃんとはあまり話せなかったし、心の中に飛び込めなかったのかも。
おばあちゃんとは良く話しをしたわ。
ちょっと見た目、堅物なおじいちゃんと良く暮らしていけるなって思ったこともあったの。
でも、今思うとおじいちゃんを一番理解していたのはおばあちゃんだったんじゃないかな。
おばあちゃんは明るい人で、きっとどんなことにもめげない人だったのよ。
おじいちゃんと結婚して、病気らしい病気もせず健康的だったおばあちゃんが
碧が5歳だったから、もう7年前になるのかしら。
その年の年末間近に突然電話が鳴ったの。
おじさん・・・パパの弟よ。
『 おふくろが今朝死んだ 』って・・・
パパもママもあまりにも突然で声も出なかったわ。

急いで帰省した私たちに、おじさんが語ったことはあまりにも衝撃的だった。
その前の晩、おじいちゃんは何か気に入らないことがあったのか
夕方からずっとお酒を飲んでいたんですって。
機嫌の良いときのお酒は周りも明るくなるけれど
どうやら、ここ数日同じ様なことが続いていたらしいの。

ママだったらパパにこれ以上もうダメよって言うかも知れないけれど
おばあちゃんは違ったのかも知れないわ。
あの時、おじいちゃんの体調が悪かったのもその原因かも知れないのね。
それに気づいたのはずいぶん後だったけれど・・・
それで、深夜まで飲み続けたおじいちゃんは当然だけれど
酔いつぶれて寝てしまうよ。
そんなことが何日か続いていたことが、気づかないうちに
おばあちゃんのストレスになっていたんだと思うの。

翌朝、おばあちゃんは台所で朝食の準備をみんな済ませて・・・
息を引き取ったの。
お医者様は、心不全だとおっしゃったわ。
誰が悪いでもない運命なのだけれど・・・

最初に見つけたのがおじさんで。おじさんはまだその時結婚していなかったの。
おじいちゃんはまだ昨夜の酔いの中で眠っていたそうよ。
慌てたおじさんが、おじいちゃんを起こしたり、パパに連絡したり大変だったと思うの。
でも、おじいちゃんはキョトンとして事態が飲み込めていなかったみたい。
と言うより、飲み込みたくなかったのが本心かも知れないわね。
私たちが帰っても、一切部屋から出てこないし。
おじさんがお通夜やお葬式の相談をしに行っても
全然相手にしないというか受け付けないのね。
とうとうおじさんが『 つまえ(片付け)、どうするんな! 』と 言ったそうよ。
その時おじいちゃんは『 おまえ達でせぇ、わしは出ん。』そう答えたの。

ママはここまで一気に話すと大きくため息をついた。


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