タイトル

七夕の夜

今から2年前・・・
7月7日、この日は悟(碧)の10回目の誕生日。
毎年、うっとうしい梅雨空に阻まれて天ノ川も満足に見られないことが多いけれど、
この年は、梅雨の晴れ間というか満天の星空を仰ぐことが出来た。
それぞれ、住む場所も環境も違うふたりだけれど
その夜は久しぶりの幸福感に浸って夜空を見上げていた。
『神様、命を有り難う・・・、お休みなさい。』
そんな言葉を心でつぶやきながら、そっと蒲団に潜り込んだ。

真夜中・・・耳元で何かやさしいメロディが聞こえてきた。
眠りから、どこか遠くへ連れて行かれるような感覚。
ふと見上げた窓から、窓一杯の蒼いお月様が輝いていた。   
一筋の金色の道、ムーンロードが窓辺に・・・
その遙か向こうから、銀色キャットとコバルトブルーの蝶が舞い降りてくる。
『何だろう?!』悟(碧)は不思議に思って身体を起こした。

銀色キャットはストンと窓辺に降りると吸い込まれそうな青い目をクルクル輝かせた。
「良いかな、悟(碧)?!」
にゃ〜〜んと鳴いたのか、本当に人の言葉をしゃべったのかわからなかった。
けれど、心にそう響いてきた。
「うん。。。」こんな真夜中なのに・・・でも怖くなかった。

「突然じゃからな、ちとわしのことを話さねばなるまい♪」
しゃべっているのか、眼が語りかけているのか良くは解らないけれど   
真夜中の突然の来訪者の話を聞いている自分が少しも変だと思わないのはなぜだろう?!
「ま、わしはジジという名前と言うことにしておこう。
こっちは“ルナ”という月の妖精・・・」
ルナはかる〜く腰をかがめて礼をした。
「ヘッ?! 妖精??」
小さな時に読んだおとぎ話には何度も出てきたけれど
まさか10歳の誕生日の夜に妖精と出会うなんって・・・

「実はな、わしらはあの天ノ川のまだずっと向こうに・・・住んでおる。
天上で生命の仕事に司っておる。
沢山の命の誕生や還元が我々の仕事でな。
ところが・・・
10年前、ちょっとしたミスをやってしまっての。
その上、おまけのミスまで ワッハハッ〜」

ばつが悪そうに、ルナは下を向いてしまった・・・
『ハハァ〜ン・・・、ミスはこの妖精か?!』
悟(碧)はルナを覗き込んでみた。
ルナは益々真っ赤になって更に下を向いてしまった。

「実はな、おまえには本当は兄弟がおるはずじゃったのじゃ・・・」
銀色キャットジジのひと言は、一瞬 悟(碧)の息を止めてしまった。
「エッ!兄弟?! いるよ、兄ちゃんが(妹が)・・・」
そう、ふたりとも兄弟はちゃんといる。
悟には五つ違いの兄が・・・
碧には三つ下の妹が・・・
「ホッホッホ、そうじゃなくて
つまり、おまえ達は一卵性双生児としてこの世に誕生するはずだったんじゃよ♪」
悟(碧)はポッカーンとして口を開けたままだった。
この、得体の知れない人間の言葉をしゃべる猫、いったい何を言っているんだぁ〜〜

「ところがな、ワッハッハ 最初のミスはわしじゃ♪
一卵性双生児というのは、男の子同士、女の子同士、つまり同性なんじゃよ。」
『あったりまえじゃん!』悟(碧)は知ってるよとばかり口を尖らせた。
ところが、このジジ猫とんでもないことを言い出した。
「わしはチト、忙しかったでな・・・ 選別を間違ったのか、どっかを傷つけたのか
この一卵性双生児の一人に可愛いオチンチンをつけてしまったんじゃ。クックク」

『ゲッ!! オイラのこと?!』『ヘッ!! そんなこと??』
「つまりじゃな、おなじDNAを持った一卵性双生児の男の子と女の子が誕生することとなった。
まぁ、世間はきっと賑わしくなることじゃろうと・・・」
銀色キャットジジは楽しそうにそこまで言うと、ふとルナの厳しい視線に気付いた。

「アッ、イヤ〜〜 オッホン そう言うことは本来あってはならんのだが・・・
実はその時はまだ気付いておらんかったのじゃよ。
その日に生まれる沢山のいのち玉をルナが月の雫に渡すとき
ハッハッハ、1個落としてしもうたんじゃ。
それがおまえ達でな、落ちてふたつにはじけたいのち玉は別々の母の体内にはいってしもうた。
本来はどちらだったかなんって事は、口が裂けても言えんがな、ワッハッハ
そのお陰というか、一卵性双生児で男女が生まれるという絶対あり得ない命の誕生が消えてしまった。
それはそれで、ホッとしたがの・・・

が、元々おなじDNAを持ったふたり、いつかは出会う、引き合う運命なのじゃ。
(何しろ、落ちた先がそんなに離れておらん・・・)
それで、今夜わしたちは出向いてきた訳じゃ。
生まれて10年経った、もうそろそろ話しても良かろうと思ってな。
出会うのはまだ数年先かも知れぬし、明日かもしれぬ。必ず出会う定めじゃ。   
おぅ、そうじゃ、名前はさとるとみどりじゃ。
くれぐれもうろたえぬようにな、ハッハッハ」

「でも・・・出会うって・・・」
困惑顔の悟(碧)に銀色キャットジジは微笑みながらこういった。
「元々はわしのミスでな、
よってその詫びに1年だけおまえ達に一卵性双生児としての時間をやろうと思う。
出会った年から毎月その月と同じ日の真夜中、たとえば来月なら8月8日じゃな
みんなが寝静まった真夜中に空を飛んで、自由にふたりで愉しむと良い。
但し、3時には帰らねばならぬ。3時間のツインタイムじゃ♪」

「ふぅ〜〜ん・・・」半信半疑の悟(碧)
「うむ、今日の話しが本当だという証拠に明日ある生き物をおまえ達に遣わそう
ルナの化身と思えばよいかな。名前は・・・ノラという」
ルナはコックリ頷いた。

突然目の前がまばゆいばかりに輝いた。
悟(碧)は思わず目を閉じた。
もう一度目を開けたときは真夜中の暗闇だった。   
デジタル時計の音だけが響いていた、時刻は3時・・・


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