タイトル

風の中・・・

五月の夜風が、閉め忘れた窓の隙間から心地よく流れてきた。
新しい風? とでも言えばいいのかな
若草の香りが頬をなでた。
眠っていた悟の耳に何かが聞こえる。
「・・・よ  ・・・ね 」
それは風の声?

ふと時計に目をやると深夜0時
ノラの眼が大きく輝いてウ〜〜ンと一度大きく伸びをした。
「サァ、サトル イキマショウ!! トキ ノ トビラ ガ ヒライタ♪」

今夜はどこに行くのだろう。
さっき・・・どこかから声が聞こえた。
悟はノラを振り返った。
ノラはフフン♪というように尾っぽをピンとたてて悟の足に巻き付けてきた。

その時・・・風が吹いた
流れるような、懐かしい風
風だけれど、それは意志を持っているよう。
「あっ!」
悟の視界がゆがんだ。
そして、ノラも一緒にフワァ〜ッと風の渦の中に吸い込まれた。   
ほんの近くで・・・碧ともう一匹のノラを感じる。

やがて、悟は碧と背中合わせで何もない空間にポツンと立っているらしい。
何もない、見回しても何にも見えない。
もしかして、これが異次元? 時空?
後ろ手でそっと碧が悟の手を握った。
その温かさが「生きている」ことを確認するように。

どこかでノラが『目を閉じて・・・』そう言ったような気がした。
閉じた瞳の奥に銀色キャット・ジジのしなやかな体が浮かんだ。
「風の声をお聞き、記憶の声を・・・」確かにそう言った。
二人はお互いの両手を握りしめながら、心がひとつに融け合っていくのが分かった。

永遠と感じるぐらい長い時間だったのか、それとも「あっ!」と言う間だったのか
二人に時間の感覚が抜け落ちた。
風がまわる・・・クルクル・くるくる
強い風になったり、柔らかな温かさを運んできたり
ほのかにお陽さまの匂いまで包んで・・・

突然、閉じた瞳が真っ白に輝いた。
その奥に人がいるような、いないようなあやふやな感覚
耳を研ぎ澄ますと、風の音がかすかに違っている。
言葉じゃないけれど、心に文字が浮かぶ
何か大事なことを言っているような気がする。

「も・う・い・い・か・ら・・・ ま・た・あ・え・る・か・ら」

なぜだろう、碧も悟も閉じたまぶたから涙があふれてる。
悲しい涙じゃない、切ない涙じゃない。満ち足りた涙・安息の涙
ずっとずっと昔、こうやって二人は手をつないでいたことがあったような気がした。
そこがどこだったのか、思い出せないけれど。
命の始まりに出会ったような錯覚を二人は感じていた。

そして・・・
「もういいから」 この言葉はどんな意味があるんだろう。


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