タイトル

悟の涙A

うなだれている悟を見つめながら・・・
碧はふっと言った。
「そんな、さとる好きだよ。」
「ヘッ?!」思わず悟が素っ頓狂な声を上げた。
「ばぁーか、loveじゃないよ、like♪」   
「わ・わかってら〜!」

「私たちがね、ゆき親子を助けられたのはきっと偶然なのよ。
いろんな条件がうまいことからみ合って助けることができた。
だからって、同じようなことが度々できるとは限らないのよ。」   
碧は言葉を選んで話し出した。
「だってね、悟。この町中の野良犬や野良猫を助けることなんって
絶対できないんだよ。
でもね・・・私はこれから先、助けることはできなくても
捨てる側や、傷つける人間だけにはなりたくないと思うの。
せめて、自分が関わった命だけは大切にしようって・・・
何の因果か、悟はノラにやっぱりおかず取られてるんでしょ♪」   
碧は笑いながらそう言った。

やっと、悟のうなだれた首が上がってきた。
「うん・・・あいつ、僕のだけ取って走るんだ!」
ちょっと悔しそうな悟の顔に笑顔が戻って来た。
「知ってんのよ、誰のを頂くのが一番安全か。」
碧はコロコロ笑った。
そう、ノラは二人にとってはちょっと意味ありな猫と犬

「そう言えば、今日は5月5日だ。今夜どっか行くのかな?!」   
中学生になって初めてのツインタイム
こんなこと、誰も信じてくれないし、誰にも言えない秘密の時間。
「そうねぇ〜、たまにはこっちからどこかへ行きたいって頼んでみるのも良いんじゃない?!」

あれぇ〜〜、またまた碧が主導権?!
悟は内心、『やっぱり姉御・・』とつぶやいた。
ただ、悟は命の始まりと終わりが無性に知りたくなっていた。
悟が見捨てた命が、魂がどうなったのか
魂なんってないかも知れない
でも、どんなに理論的に考えても(悟が考えられるかどうかは疑問だが)
やっぱり説明できないことも多い
「にわとりが先か、卵が先か・・・」ぼそっと悟はつぶやいた。

「なぁ〜に、それ?!」
碧は笑いながらふり向いた。
初夏の青葉、天空から光が一筋きらめいた。
「今夜はノラに頼んでおこうよ♪」

碧はポンと悟の肩をたたき「じゃぁね!」とひとこと言うと自転車のペダルを踏んで走っていった。
あんなに重たかった悟の心
碧の言葉でなんかホッと肩の荷を下ろしたような気がした。
確かに、これから先も色んなことに出会ってすべて解決できる・・・
そんなことは、きっと無いんだ。
それは喪失感とはまた違う、何というのか
受け止める・・・と言うことにつながっていくような気がした。
『あいつ、分かっているのかな?!』

その夜の夕食はいつにないステーキだった!
かあちゃんが【こどもの日】のごちそうにはり込んでくれたこと
たらふく食べた後で知った。
その日ノラはえらく殊勝で、オイラが肉を小さく切って机の下の小皿に入れてくれるのを待った。
さすが、一枚くわえて走るのには少々重たかったのか・・・

ノラは念入りに毛繕いを終えるとスルリとオイラの膝の上に座ってまあるくなった。
悟の瞳を見つめて「ニャ〜ワン」とひとなきするともう寝息を立て始めた。
ノラの背をなでながら
『なぁ、ノラ。オイラの疑問におまえ答えてくれるかな?!』
そう心の中でつぶやいた。
ノラのしっぽがピピッと反応したことを悟は知らない。
さぁ、今夜も夜が更けていく・・・


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