タイトル

悟の涙

五月、肌寒かった風がふっと南の暖かさを運んできた。
桜の花も散って若葉の季節
中学校の生活にもようやく慣れ始めていた。
今度も国道を挟んで碧と悟は別の中学校
まぁ、かえってその方が気が楽かなと思ったりする碧だった。

GWの前、本当はゆきのことでちょっと期待していたのだけれど
パパの仕事の都合で、パパとゆきだけが四国に行くことになった。
ゆきが幸せになるのならそれで良いと納得した碧   
もちろん夏休みには家族総出で
ゆきに会いに行くことはパパと約束した。
もっとも、このことはパパとママなんか思惑があるらしい。
でも、無理に聞き出さなくても数ヶ月すれば分かるから・・・
だってパパは嘘つかないもの

そう言えば、今日は5月5日、こどもの日
もう、こどもの日って嬉しがるような歳でもないけれど
碧はさわやかな気持ちで通りを自転車で走っていた。
この辺じゃ、鯉のぼりをあげている家などほとんど見ない。
それでも小さな窓から時折スーパーで売られているような
鯉のぼりを目にすると「おっ! 坊やがいるのかな?!」   
などとつい嬉しくなるのだった。

あっ!向こうから自転車をこいで来るのは悟だ。
「さとる〜〜っ!」
碧は片手をあげて悟るに呼びかけた。
ところが・・・
悟は、碧をちらっと見ただけでヘルメットを深くかぶり直すと
急いで脇道に入った。
『ん? 悟どうしたの??』
一瞬、迷った碧だったけれど猛然と悟の後を追った。

必死の立ちこぎで、追いついた碧は
「さとる!いったいどうしたのよ!!」と声を荒げた。
ふり向いた悟を見て碧は息の根が止まったかと思った。
だって・・・悟が、泣いていた・・・

公園のベンチで碧は悟の涙の訳をやっと知った。
「おいら、今おまえに会いたくなかった・・・
会えないことしたもん・・・」
そう言いながら、悟は嗚咽をこらえるように手を握りしめた。
「さとる・・・何があったの?」

泣きじゃくりながら悟は打ち明けた・・・
「1週間前の夜、雨が降ったの覚えているか?」
「うん、久しぶりの大雨だったね。」
「その翌日、学校帰りオイラ・・・見なければ良かった。」
そう言ってうなだれて握りしめた拳に涙が落ちた。

話は・・・
悟の通学路の外れにちょっとした草むらがある。
休耕田と言うか、すっかり荒れている。
それでもチョウや虫たちには格好の場所らしく
見ていて飽きない場所になっていた。

何気なくそこで立ち止まった悟は足元の小さな段ボールに目がとまった。
あれ?昨日はなかったのに・・・
段ボールはびしょ濡れになっていた。
止めておけば良かったのに・・・好奇心からか
悟はその段ボールを覗いてみた。
と、同時に「ミュー・ミュー」と言う鳴き声
悟は固まってしまった。
段ボール以上にびしょ濡れの目が開いたばかりのような子猫三匹
お互いが重なり合うようにして小さな手を必死に伸ばし首をあげた。

『エッ?! 捨て猫?!』
どうしよう・・・周りを見ても誰もいない
だれかが夕べのうちに捨てたんだ。
助けてやりたい・・・けれど
手のひらに載りそうなほど小さな三匹、   
自分で餌なんって食べられない、まだ母さん猫がいる。
そんな子猫三匹、うちに連れて帰れないし
当然飼ってやることなんってできない。
それでなくたってオイラのサンマは
必ずと言って良いほどノラがくわえて走るし
どう考えても家じゃ無理だ・・・

悟は胸が締め付けられるほど苦しかった。
『ごめん、オイラおまえ達を助けてやれない・・・』
後ろ髪を引かれる思いで悟は一歩二歩後ろに退いた。
ふと、碧たちがゆき親子を助けたのとダブった。
『でも・・・でも・・・ごめん。』
後は夢中で走った。
耳の奥で子猫の声がいつまでも残った。
うちに帰っても誰にも言えないし、今なら助けてやれるのに
そんな悔恨が波のように押し寄せる。
オイラは・・・命を見捨てた。


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