タイトル

ゆき A

いつのまにか暦は三月に入った。
三月と言っても、今年はまだ春が遠いようなそんな朝。
体育館の横の段ボールには母犬1匹が残されていた。
それでも、毎日碧を始めクラスメイト達が世話を続けている。
【ゆき】もすっかり信頼した眼を子供達にむけていた。

「ねぇ、ゆき・・・私たちもうすぐ卒業なのよね。
いつまでも一緒にいられない。どうしたら良いんだろうね。」
そう問いかける碧に【ゆき】は曇りのない眼でじっと見つめた。   
その後ろ姿を、みちこ先生は黙って見つめていた。

「おい、起きろよ! 行くぞ♪」
悟の声に飛び起きた。そうだ!今日は三月三日の真夜中
「やだぁ〜〜、本当は今日はひな祭りなのに・・・」
寝ぼけ眼の碧は思わず叫んだ。
「何言ってんだか・・・」悟が苦笑いした。

「今日はどこへ行くんだろう?!」碧の言葉にノラ達がクスッと笑った気がした。
三月の真夜中、北斗七星の隣には春のだいさんかくけいが輝いている。
「ねぇ、あのトライアングルをくぐってみたいわ♪」
悟と碧、二匹のノラは天空に飛んだ。

キラキラと眩しい星くずの間をどのぐらい飛んだのだろう。
気がつけばどこかの森に降り立っていた。
クヌギのおじいさんの森?! ううん、そうじゃないみたい。   
ずっと眼下にはまだ街の灯がポツポツ見えているもの。
「ここはどこなんだろう・・?」悟が言った。
森の奥に今にも消えそうな灯りが見えていた。

「人が住んでるのかな?!」碧は小さくつぶやいた。
寝静まった森の奥から時折フクロウたちの「ホー・ホー」と言う声が聞こえてきた。
灯りに向かって歩いていくと・・・小さな掘っ立て小屋があった。
手作りらしいその小さな小屋に、おじいさんが木のベッドで眠っていた。
「あれぇ?!」碧は小さな声を上げた。
ほの暗いランプの光がその小さな部屋を映し出している。
奇妙にも、おじいさんの足下には数匹の犬と猫がお互い抱き合って寝ていた・・・
そして・・・おじいさんの枕元のセピア色の写真
それは幼い碧がツバメが死んだと言って大泣きをした日
そっと優しく包んでくれた人の顔だった・・・

『このひとは・・・誰なんだろう・・・ そしてここは?!』
悟や碧の気配は一向に感じないのか犬も猫もスゥスゥと心地よい眠りの中にいる。
「おまえの知り合い?!」悟が訊ねた。
うんともううんとも言えない碧だった。

「アッ!おじいさんが・・・なにか寝言言ってるよ」
ふたりで耳を澄ますと
「お帰り・・むにゃむにゃ・・・」と言ってまたいびきをかき出した。
「誰がお帰りなんだろう?! 俺たち?!」悟がとんでもないことを言った。
「まさかぁ〜〜」碧は眼をまん丸くした。
でも、その「むにゃむにゃ」は聞き取れなかった。
「で、俺たち、今夜はここでなにすればいいのかなぁ?!」
悟は思わずつぶやいた。
そう・・・いつもなら何か目的が向こうからやってくる。
ふたりは2匹のノラを見たけれどノラ達は何にも答えず寝そべった。

「へぇ〜、今夜はここにいればいいの?!」
ふと振り返ったムーンライトに銀色キャットの影が映った。
ふたりの耳に

「時は繰り返し 時空を超える・・」

そう聞こえてきた。


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