タイトル

幸太と千佳

「あれ? 悟、その本・・・」碧は悟の手の中にある本を見て笑った。
「あっ?! う・うん・・・ あの子犬もし、貰い手がなかったらどうなるのかなと思ってさ。
よくよくいなかったら、母ちゃんに頼むかなと思って。」
悟は頭をかきながら照れくさそうに言った。
「でも、欲しいらしいよ。」いたずらっぽく千佳を見つめながら千佳の手にその本を置いた。
【犬の飼い方】

「千佳・・・どうしたの?! 犬嫌いじゃなかったっけ?」碧は千佳の顔をのぞき込んだ。
「うん・・・私はね、怖いの。小さな時近所の野良犬に追いかけられてこけちゃったから。
おかあさんが、大丈夫よって言っても、あの時を思い出すの。   
でも、でもね・・・幸太が、子犬が欲しいって、そう言うの。
幸太はね、ちょっとだけ普通と違うの。
私は良く解らないけれど、おかあさんは幸太は心の病気だって。
たとえばね、夜寝るときでも服を脱いで順番通りちゃんとたたまなければ納得いかないの。
どうせ、お洗濯するから良いじゃないと私が言っても『それじゃいけない!』って・・・
お友達もあまり沢山いない・・・
でも、お家じゃ普通だよ。学校だってみんなと同じに通ってるし
ただ・・・時々幸太は自分の殻に閉じこもってしまうの。
この間ね、あのポスター書いていたら幸太が『子犬欲しい・・』って。   
以前から幸太は犬が飼いたかったんだけれど、私のために辛抱していたの。
だから・・・私さえ『良いよ。』って言えば、もしかしたら幸太の大切な友達になるかも知れないと思って・・・」

「そうだったんだ、えらいね、千佳。」碧は感心したように言った。
「子犬からだったら、きっと大丈夫だよ。」悟も千佳の背を押すようにそう言った。
「うん!」千佳は明るい声で返事をすると、その本を持ってレジに走っていった。
「子犬一匹、行き先決まったね。」悟が笑顔で碧に言った。
「そうだね、みちこ先生に言わなきゃ・・」碧も千佳の後ろ姿に微笑んだ。

そして、週明け
早めに登校した碧をみちこ先生は待ちかねていたように呼んだ。   
「希望者がいてくれたのよ!」
『あれ? みんな決まったのかな? 幸太君の犬はどうなるんだろう。」
ちょっと微妙な碧の朝が始まった。

「みちこ先生、みんな決まちゃったの?!」
碧はちょっと困惑したような表情で訊ねた。
「いいえ、そんなにすぐはね。でも1匹は多分殆ど決まりよ♪」
みちこ先生は嬉しそうに言った。
「でもね、ただ欲しいという人にはお渡ししないつもりよ。
今度みんなとも相談しようと思うけれど
ちゃんと命について大切にしてくれる里親さんでなければね。」
心なしかみちこ先生はウキウキしているようにも見えた。

「せんせ、殆ど決まったというのはどこのお宅ですか?!」
碧は思い切って訊ねてみた。
「フフ・・・、まだみんなには話していないけれど、碧さんなら良いかな?!
千佳さんのお父さんがね、夕べ電話をくださったの。 
幸太君のために1匹頂けますかって?!」


HOME NEXT BACK TOP