タイトル

職員室

学校の駐車場にはみちこ先生の赤い軽四が止まっていた。
きっと先生いつもより早く来たんだ。
急いで教室に飛び込んで、ランドセルを降ろすと体育館の横に走った。
先生はかがみ込んで、犬たちに何か話しかけていた。
「先生・・・」みちこ先生の後ろからそっと声をかけた。

「あら、碧さん。おはよう。」
みちこ先生は笑顔で振り向くと「夢・・・じゃなかったのね。」そう言ってクスッと笑った。
先生と碧の不思議な時間。誰に話しても信じて貰えない時間。   
碧はみちこ先生と共有時間を持った同志のような気がしてきた。
「これから、教頭先生、校長先生とお話ししてくるわ。
クラスのみんなには、それから話して相談しましょ。」
そう言って、先生は職員室に向かって歩いていった。
碧はママから貰ったドックフードを下げていたけれど
みちこ先生は小さなお皿にちゃんとドックフードと水をやっていた。
『先生、有り難う。』

職員室の奥、校長室でちょっとした激論が交わされていた。
「校長先生、いけませんよ。もし低学年の児童に何かあってからでは遅いです。」
そう教頭先生が、校長先生に進言している。
でも、みちこ先生も負けずにこう言った。
「校長先生、今の子供達に欠けているのは、生命に対する思いやりです。
生き物に対して、無感情になりすぎています。   
あの子達はもうすぐ小学校を巣立っていきます。
私は、教科書にはない本当の意味での教育するチャンスだと思います。
ぜひ、ご理解して見守っていただきたいのです。」

校長先生は、ふたりの顔を交互に眺めながら・・・
ふと立ち上がって、窓の外の青い空をじっと眺めた。
そして・・・ゆっくり、語り始めた。
「教頭先生、あなたにはありませんでしたかな?!
子供の時、犬や猫を捨ててあるのを見て切ないと思ったこと。
連れて帰ってやりたいと思ったこと。
私はありましたよ。でも、だからといってみんな連れて帰るわけにはいきませんけれどね。」
校長先生はいたずらっぽく笑った。

「さて、みちこ先生。だからといって丸まる受けとめる事は出来ませんよ。
ここは公共の場です。犬猫を飼育する場所ではありません。
まして、子供達に里親を強制すべきでもありません。
ただ・・・みちこ先生のおっしゃるように
これも心の教育という点では、私も納得がいきます。
どのような方向に向くか私も関心があります。
但し、そう時間を差し上げるわけにはいきません。
そうですね・・・二週間。これが限度です。
それ以後は、保健所に引き取っていただきます。
それと、その間の責任はあなたがしっかり持っていただくこと。
そのための時間で他の授業をおろそかにしないこと。
放課後の話し合いも結構ですが、どんなに長くても5時までには子供達を帰宅させること。
かなり厳しい条件ですが、守れますかな?!
どうでしょう、教頭先生?!」

「はっ、校長先生がそこまでおっしゃるのなら、私は異存はございません。」
教頭先生はもみ手をしながら頷いた。
「有り難うございます。」みちこ先生は丁寧に頭を下げると部屋を出て行った。
「いいですなぁ・・・こんな風に前向きな先生は久しぶりです。」
校長先生は何度も頷きながら一人笑みがこぼれていた。
教頭先生は・・・ちょっと心配顔。
でも、みちこ先生にだって何か当てがあったわけではない。
これから、これから・・・
教室のみんなと知恵を出し合って、考えて・・・


HOME NEXT BACK TOP