タイトル

夕暮れ

碧は12月の夕暮れの中で、一人ポツンと立っていた。
昨夜の「ツインタイム」のなかの自分・・・
何だったんだろう。悟が驚くぐらい、碧は一気にまくし立てた。
何かに向かい合うように・・・

大きな銀杏の木の真下
黄色のイチョウの葉がハラハラ落ちてくる。
遠い幼い日の幻影が浮かぶ。   
あれは・・・ずっと幼いあの日
命の衝撃に出会った日
碧はいつの間にかあの日の自分に戻っていた。

碧、5歳の初夏
そこがどこか、はっきり思い出せない。
懐かしい場所のような気がするけれど・・・

どこか田舎の田園の匂いがするような場所
時間がゆったりと流れていて、初夏の陽射しが眩しかった。
とある家の二階に碧はいた。
そこには数匹の猫がいて碧の遊び相手になっていた。
碧がふと、窓辺を見ると・・・
黒と白の小鳥がスーイ、スーイ飛んでいた。   
手を伸ばせば届きそうなほど。
それは、燕尾服のツバメだと後で知った。
気持ちよさそうに空を飛ぶ彼らに幼い碧は網戸を開けて手をさしのべた。

碧の気持ちを察したように一羽のツバメがスーッと部屋に飛び込んだ。
その瞬間、今まで碧にすり寄っていた一匹の猫が
アッという間にツバメを襲った。
『エッ?! エッ?!』何が起こったのか良く解らなかった碧は
ひと言「イヤーッ!!」と大声で叫んだ。
その声に驚いて老夫人がやってきた。
わんわん泣き出した碧に驚いた彼女は事態を理解すると・・・
襲った猫からツバメを助け出して碧の手のひらにのせた。

ツバメは眼を閉じ、かすかな胸の鼓動が解るだけでピクリともしなかった。
「ミドリ、もうツバメさんは死んでしまうね。
この季節はね、網戸を開けてはいけないんだよ。
にゃんこのいないお家は良いけれど、にゃんこは獲物を捕るという本能があるんだよ。」

碧は涙があふれて止まらない・・・
老夫人は碧を膝の上に抱くと
「ミドリが悪いんじゃないよ。開けてはいけない、そう言わなかったバァバが一番悪い。
だから、ミドリと一緒にこの子の最期看取ってやろうね。」
やがて・・・碧の手のひらの小さな命は胸の鼓動を止め冷たくなっていった。
碧が初めて命と向き合った日。
老夫人は、殺した猫が悪いとは言わなかった。
碧や老夫人の不注意がツバメを死に追いやったと・・・
「物言わない生き物は、人が守ってやらなきゃね。」老夫人はそう言った。

あの日、碧は命が儚い物だと知った。
たった今大空を飛んでいたのに・・・
一瞬のうちにツバメは鼓動を止めた・・・
TVやゲームの中の殺しっこ、やり直しがきくじゃない。
でも、本当の命はやり直しなんってない。
あの日、手のひらで命を終えたツバメを碧はずっと忘れることが出来ない。
老夫人と碧はその小さな亡骸を葉桜になった桜の根元に埋めた・・・

ただ・・・それは碧の想い出に中に眠っている意識で
そこがどこなのか、老夫人が誰なのか今も霧の中に包まれていた。

「クィーン、クィーン・・・」
ノラの声で碧は目覚めた。
『夢だったんだ・・・』碧の頬に涙の後があった。
同じ夢を、碧は何度か見る・・・
「ツインタイム」の冒険とはまた違う碧の心の領域
いつかあの場所に戻りたい、そんな願望が碧の心のどこかにあった。


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