タイトル ライン

真夜中の0時
突然カーチのPCの電源が入った。
『一通のメールが届いています』
お知らせポップアップが下からスッとあがって消えた。

ん? ベッドで寝ていたカーチは、不思議に思って体を起こした。
だって・・・電源落としたのに・・・
いったい誰だろう?
PCには見慣れないアイコンがひとつ
星マークをクリックすると『星くずメールソフト』が起動した。

その時、カーチは自分の目を疑った。
差出人は「はんぶん」
そう、二週間前に天使になったカーチの飼い猫の名前。   
「はんぶん」っておかしな名前、獣医さんの受付でも笑われたっけ。
でも、一度聞くと忘れられないぐらいインパクトがあるでしょ。
ちょうど、顔の半分が白と黒に分かれたブチ猫「はんぶん」

ま・まさか・・・
カーチは恐る恐る、そのメールを開いた。
後は・・・言葉にならない。   
あふれる涙が頬を伝って落ちた。
「はんぶん」からの星くずメール

タイトル

カーチ、無事お空の上に着きました。
思いもしなかった、みんなとのお別れ。
でも・・・何もかも受け入れて還って来られたよ。
神様がね、地上で10年愛された命には一度だけ星くずメールを出してもいいよって
だから、僕はカーチに出すね、誰よりも大好きなカーチに。

10年間とっても幸せだったよ、カーチ。
カーチは幸せだったかどうかわからないって言うけれど
たとえ二間のお部屋の世界でも
たくさんの仲間とトーチとカーチと暮らせたこと、本当に幸せだったから。

初めて出会ったあの日
僕たち(たんきち・シャム&僕)は捨てられたんだ。
小さな山の葡萄畑、その物置用の廃車。
ほとんど人の通らない山の中
たまたま、犬を4匹連れて散歩中のトーチとカーチが僕たちを見つけた。

その時、おうちにはすで元野良猫たちが三匹住んでいた。
だから、カーチは本当はひるんだんだよね。
でも、トーチが「餌を持ってきてやれ!」って・・・

カーチは急いで山を下っておうちに帰った。
それだけでも20分ぐらいかかったよ。
息を切らして帰ってきたカーチの手には、小さな袋いっぱいに入ったキャット・フード。
それから毎日僕らはカーチが来るのを、首を長くして待っていたんだ。

器量よしのシャムだけはある日、偶然通りかかったお百姓さんに拾われた。
でも・・・僕とたんきちは見た目が悪かったんだって。
それでも、トーチとカーチは毎日、餌を運んでくれたっけ。
初夏のある日、西の空がゴロゴロ鳴りだした。
そしたら、カーチが息せき切って走ってきた。
手には小さなバスケットを持って。

「これから暴風雨になるの。 大丈夫、連れて帰るから!」

ちょっと後ずさりした僕らをカーチはスイッとすくい上げてバスケットに入れた。
不安で「ニャー・ニャー!」と大声でなく僕らを犬たちが不思議そうにのぞき込んだ。
降り始めた雨にカーチは濡れながらおうちに走った。

そして・・・ここが僕らのおうちになった。
仕事に行っていたトーチが帰ったとき、僕らがいたのに驚いたけれど
口では「飼わんぞ!」と言いながら笑って僕らを受け入れてくれたことも

それから10年、僕らは温かい寝床と食べ物。
その後も増え続けた野良仲間と共に穏やかな共同生活だったよ。
ありがとう、トーチ・カーチ。

それとね・・・カーチ
気がつかなかった?!
僕が誰の生まれ変わりか?

僕はブチ猫、白と黒
カーチはよく言っていたよね、「女の子みたいに優しい」って   
それに時々カーチは僕に「ワン!」って声をかけたっけ
僕が「ニャワン!」って返事をすると、「もうちょっと!」って嬉しそうに笑ってた。

ブチで、女の子みたいで「ワン!」と鳴きそうな猫
カーチ、カーチの記憶のどこかで眠っているよ。
ほらっ!僕は・・・犬の「ゆき」の生まれ変わりだったんだよ。
カーチの悔い、カーチの涙
たった一度捨てた犬の「ゆき」
ブチ犬で女の子だった「ゆき」

カーチがどんなに謝っても謝りきれないと、今もこころの中で持っている悔恨の泉
でもね、カーチ
カーチが「ゆき」のことずっと思っていてくれたから
ぼくは「はんぶん」としてカーチの元に戻れたんだよ。
カーチ、もう良いからね、「ゆき」も「はんぶん」もカーチが大好きだよ。

僕の最期の瞬間、断末魔であえぐ僕にカーチが
「もういいよ、もう・・・10年ありがとう、はんぶん」
そう僕を優しく包みながら言ってくれたこと
冷えていく僕のからだを抱きしめてくれたこと
カーチのベッドで永遠の眠りについたこと
僕は幸せだった・・・

カーチは、いつかカーチも逝くから「待っててね」
そう言うけれど、僕は待ってなんかいられない。
神様に直談判したんだ。
そしたら・・・微笑みながら神様が良いよって。

でも、僕
カーチの言葉もちゃんと覚えてる、「もう、命は預かれない・・・」って。
どんな命も預かったら10年から20年。
カーチはもう自分の体力がそれだけ残っていないって
だから・・・僕は
カーチのお庭の何かに精霊として舞い降りるから

カーチ、お山で何かの種を探してきてね。
ほら、前に天使になった「ゴン」の替わりだってトーチが「ヒイラギ」の苗木を植えたでしょ。
「チビ」には「アケビ」
僕は・・・カーチ、何か種からお庭に植えてよね。
必ず、必ず帰るから。

大好きなカーチ
僕はカーチのところに必ず帰るよ。

ライン

メールはここで終わっていた。
カーチは涙で文字がにじむのを何度ぬぐったことだろう。
あぁ、「はんぶん」が帰ってくる・・・
そして、カーチの胸につかえていた「ゆき」のことさえ
温かい涙で溶けていった。
ありがとう「はんぶん」、本当にありがとう。

明くる朝、犬の散歩道でカーチはポケットいっぱいのクヌギのドングリを拾った。
フェルトペンで、ひとつずつ「はんぶん」とかき込んで
庭の隅に埋めた。
春に小さな芽が出ますように・・・

 

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