タイトル

三の糸 C

【恩と義理】・・・なんって、本当に一昔の任侠世界みたいだけれど
私自身の足かせはきっとこれから始まっていた。
誰が強制したわけではない。
けれども、自分の出生の秘密を本当の意味で知ったとき私は
この奇妙な鎖から抜け出せなくなった。

もし、私が【養女】という身分(?)じゃなく本当の長女だとしたら
私の羽はきっともっと雄々しく羽ばたいたかも知れない。
何の遠慮がいるものか、自由に空を飛ぼう!   
我が儘を言い、若き日の恋愛も奔放になれたかも知れない。

人は笑うだろうか?!
まだ二十歳になるかならないかで、親の老後に怯えていたことを・・・
これから自分の未来が開けると言うときでさえ
振り向けばいつも真後ろにこのことがあった。

生家の父はいつ訪ねてもお酒の臭いのする人だった。
あるいは私と会うからそうだったのか?!
ついぞ、「おとうさん」と呼ぶことなく私が結婚した翌年、冥土へ旅立った。
結局、私はこの【父】にどんな理由で【里子】に出したのか
永久に問う機会を失った・・・
【母】が私のことをどう思っていたか   
産んで良かったと思ったのか、逆だったのか・・・

いつか生家の法事に呼ばれたとき長兄は大切そうにある葉書を兄弟に回した。
それは【母】が知人に食べ物を頂いた礼状だった。
こども達が喜んで食べた・・・そう記されていた。
でも、そのこども達のなかには私はいない。
私は、きっと存在していなかったのだから・・・
時間が止まったように、空虚なモノクロ
私を産んだ【母】でさえ私の記録がない。
何をこだわっている、そう自問しても答えは出ない。

利口ぶって、解ったような顔をして
『私の幸せのために、里子に出したのよ。』そう必死に思いこもうとしている私。
もう一人の私が醜い顔で
『違うよ、いらん子やったんや。ひとりぐらい何としても食べて行けたわ。
乳飲み子の間は一年、それから先は放って置いても勝手に育つ。
あんたは捨てられた、向こうさんの老後のために、引き取られたんよ。』

こうは言っても、養家の両親が自分たちの老後のために
私を貰った(?)とは決して思ってはいない。
母との心の分岐点までは、きっと普通の親子だったから・・・
父よりも母と良く話をした。
それも・・・母が話すのは父の悪口。
それでも笑って許せた、あること以外は・・・

ある日、母が私に言った事は・・・十代の私にはかなり衝撃的だった。
もちろん、母は私以上に傷ついてはいたのだろうけれど
わたしに・・・言って欲しくはなかった。
もしかしたら、今は話したことさえ忘れているかも知れない母
父と母、男と女・・・

そして、私はそのことは決して他言はすまいと心に誓った。
父と母を天秤にかける・・・私は父の方が好きだ。
父の名誉を守りたい、このことはあの世まで持って行こう、そう思った。
似非夫婦? 今ならとっくに別れていたかも知れない。
やっぱり、他人の寄り集まり・・・

私は自分の結婚に対してひとつの願望があった。
絶対壊さないこと。
どんなことがあっても、家族を守り抜くこと。
自分の家族が血も繋がらぬ他人同士だと知ったあの日のショック。
崩れる砂楼の上で何とか踏ん張れたのは未来に対する希望。
そして、事実を知ったあの日も母の姿はない。

三の糸・・・切れたまま再び弦として張られることはなかった。
そして、今も私は自分の存在の意味を求めて心は激しく揺れ動いている。


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