タイトル

三の糸 @


一の糸・二の糸・三の糸
三絃の幻想
がんじがらめの 蜘蛛の糸

三味の糸は太さによって一の糸・二の糸・・・と続く。
私の三の糸は・・・
三の糸は細く切れやすい。
もしかしたら・・・最初から切れていたのかも知れない。

「ほんけ、ええんか?! とうちゃん!」
「うるさい! 父ちゃんが決めたけん、子供はだまっちょれ!!」
そう言って父は薄汚れたコップに焼酎をこぼれんばかりに注いだ。
それでもなお、納得のいかない長兄は
「ばっちゃん、ええんか?!」
火鉢の番をするでもない祖母はぽつりとつぶやく。
「とさまが決めなさったけのぉ〜」

もう五十年以上昔の話になる。
聞いたわけではない、私の想像でしかないその日。
ばっちゃんの側できっと泣き疲れて眠っていた私。
私は兄ふたり、姉三人の末っ子だったらしい。
今でもはっきり長兄の年を知らないが、一回りは離れてるのかも知れない。
生まれてすぐに母を失った。
すぐ上の姉はやっと歩けるようになったばかり。

ある日私に里子の話が出た・・・
貧乏人の子だくさん、乳飲み子はそれだけでもひとりの手がかかる。
子供でさえ、農作業にかり出されたあの頃。
もしかしたら・・・
父は私の顔を見たくなかったのかも知れない。
母の命を奪った運命の子。
父にとっては切なく辛い、そして・・・憎い子?!

私に自ら選べるすべもなく、私は生家を去った。
父の手から他人の手へと・・・

養家で私は何も知らず17歳の春まで過ごした。
いえ、何も知らずというわけではなく
幼い頃「○○ちゃんって、もらい子ってほんま?!」
そう幼なじみに問われたことを封印していた。
小さな不安を胸に閉じこめながら、どこかで「良い子」でいなければと思った。

勉強は・・・出来ると言うほどでもなく、出来ないと言うこともなかった。
我が儘を言わない子であった。
今思えば、根底に幼なじみの一言が杭のように突き刺さっていたからかも知れない。
忘れたふりをしていても、いつかは現実を突きつけられる・・・
養家もどちらかと言えば食べていくのが精一杯だった。
小さな事業の失敗、火事・・・その他もろもろ

高校三年、当時就職には戸籍謄本がいった。
養家の父はずいぶん私に見せるのをためらったようだ。
その時私は、うっかり幼いときに封印したことを忘れていた。
父が「話がある・・」と言ったとき
『もしかしたら・・・まだ見ぬ兄がいるのでは?!』などと
当時のTVドラマのような展開を予想していた。

しかし・・・父が話したことは
私は、足下から一気にすくわれた。
そうだった・・・もうずいぶん昔どこかで誰かに言われたんだ。。。
封印したはずの小箱が突然に口を開いた。
それと同時に、私の心に【恩】という言葉が重くのしかかった。

もしかしたら・・・私にはこの両親、そう養家の両親の老後が必ず降りかかる・・・
こんな得手勝手なことを私はきっと思ったのだと思う。
当時はそれが何だったのか思いもつかなかった。
実の子同然に大切に育ててくれた、それは今も変わりない感謝の心。
しかし・・・・何かから逃げたいと思った。
逃げ切れない何かから・・・


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