タイトル

一の糸 C

私は身長158.5CM、体重52〜4KG、中学の時から殆ど変わらない。
恐ろしいことに、妊娠中だって変わらなかった。
これでも男の子三人の母
長男(ぼんくらとも言う)と一卵性双生児の男の子
どの子を宿っても私は56KG以上増えなかったと思う。
まぁ、それだけ変化に乏しい体型?!
それでも生家の父は生前「飼い葉が違う。」そう言って感心した。
つまり、実の兄弟姉妹の中でこれでも私は一番大きい。
私が去った後で生まれた母違いの弟でさえ、私より遙かに背が低い。
これだけでも養家には感謝しなければいけない。

心だけは、心だけは・・・本当に波瀾万丈に様々な嵐に耐えてきた。
そう・・・死にたいと思ったことの二度目
それは、夫のアルコール依存症
数年前のそれよりは遙かに進んでいる。   
彼はまだ、それに気付いていない。
あるいは、気付かないふりをしているのかも・・・
確かに、あまりにも色々なことがあったから
「酒でも飲まなきゃやってられない。」だったのかも。
いつの頃からか、楽しいお酒がだんだん愚痴酒になっていった。

何と言っても私の養母のこと、そして追い打ちをかけた「ぼんくら事件」
どちらも、私にとっては切り離したくても切り離せない現実。
どんな罵詈雑言を言われようとも耐えるしかないと思ってた。
もちろん、年がら年中言うわけでもないし
元々は、相手思いの優しい人(のろけじゃ無くて)
自分の愛情表現は下手な人だから・・・   
心の中で思っている優しさの1/10も口からは出てこない。
言い方を変えれば、私じゃなければきっと【離婚】だってあり得たかも知れない。
ただ、私は夫との居場所が最後の逃げ場だと思っていた。

私には・・・帰るべきところがどこにもなかった。
生家は、戻れるはずもなく
養家は、消滅。養母が夫の世話になっている。
何かがあったとき、私を全身で受け止めてくれるのは夫以外にいない。
私は、普通(?)の娘じゃない。
仮に夫と別れたからって、どこに行く当てもなければ住む場所さえない。
ある意味で【離婚】を口に出せる人は幸せな人?!
きっと、どこか頼るべき人がいるはず・・・

一度目は、母と死ぬことも密かに考えた。
でも、それは机上の空想だけで実際に行えるはずもないと自分でも解っていた。
それに、万一どちらかが生き残ったり、両方とも死に損ねたりすると怖かった。
こども達はもうこどもではなく立派な成人だし
一人カスみたいなのがいるけれど何とか生きていくだろう。
でも・・・本当は死ぬのは一番怖い。

夫の体調が歳をますごとに悪くなっていく。
昨年とうとう「肺気腫」を宣告された。
医師からは通常の仕事は出来るけれど、いつか先で酸素ボンベが必要になると・・・
このことが益々、夫の不安をあおった。
彼の肩に何人も寄りかかる事に、遂に夫が耐えかねた・・・
「一人にさせてくれ・・」
彼にとっても、決して楽しい半生じゃなかったから
苦悩ばかり、これから少し楽が出来るかと思えば精神的ストレス
せめて、これからの数年自分らしく束縛されずに生きたいと
そう願う夫の気持ちは充分すぎるほど解る。

いよいよ、私はたとえ「死」を選ばなくても夫を自由にさせるべきなのではと悩んだ。
けれど・・・私一人では養母もぼんくらも重たすぎる・・・
私も、逃げたい。
いっそ、二人でどこか知らない世界へ・・・
そんなこと出来るわけないよね。

あがれない坂・・・どんなにあがいても私にはあがれないの?!
幸せって、何?!
そう、自分に問いかけてみる・・・
夫は最近、不機嫌の方が多い。
それでもたまに「自己反省」の時があるのかふと唇から漏れる。
「俺の性格やけん、しゃぁないなぁ〜〜
死ぬまで直らんかもしれんけれど、辛抱せぇな・・」
「うん。。」私は小さく頷く。
あがれない坂、あがりたい坂
そして夫は・・・私にとってたった一本の頼り糸、一の糸

〜*〜 完  〜*〜


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