タイトル

一等大切なことC

ルナがいたずらっぽく妖精の杖をサッと一振り。
今からお話しするのは・・・多分
一等大切なことの最終章
神様の部屋(作業所)で神様と《ゆき》です。

満月の夜、命の再生の仕事を終えた神様は
揺り椅子でつかの間の眠り・・・
その足下にまぁるくなって寝ている《ゆき》
眠りから覚めた神様が、時折《ゆき》の背中を優しくなでます。
そんなとき《ゆき》はフッとマムの手の感触を思い出します。
そしてそのまま、深い眠りに落ち込んでしまいました。・・・

夢の中で・・・
青空の雲の中、《ゆき》はフワフワ浮いています。
とっても気持ちが良いんだけれど
《ゆき》の心のどこかにはぬぐい去れないシミがあります。
天上に戻ってきても、マムの星くずのメールを見ても
受け入れない感情・・・   
ダッドとマムを待っているのに
もし、もし・・・巡り会ったとき
《ゆき》はどんな顔を・どんな風にすればよいのか解りません。
それは《ゆき》の唯一割り切れない自分自身の心です。

そんな《ゆき》の気持ちを神様は知らないわけではありません。
いつかは凍てついた《ゆき》の心を春の泉のように
柔らかな陽射しで包んでやりたいと思っていました。

あ・あぁ・・・、雲の切れ間から七色の虹が輝き始めました。
『とっても綺麗・・・』《ゆき》は輝くばかりの美しさにウットリ・・・
ん? 虹の架け橋から一匹の犬がゆっくり降りてきました。
《ゆき》にとってもよく似た犬です。

「やっと会えたわね、ゆき・・・」
その犬は、懐かしそうに《ゆき》に微笑みました。
「あ・あのぅ・・・ どなたですか?!」
思わず訊ねてしまいました。
「そうね、あなたの記憶には私はもうないのよね。」
何となく淋しそうにそう言いました。
「もしかして・・・ 私のお母さん?!」
嬉しそうにその犬はしっぽを振りながら
「そうよ、神様の思し召しで会うことが出来たの。」そう言いました。
「ほんとに? 本当のお母さん?!」
《ゆき》は嬉しくなって走っていきました。
そしてしばらくの間、
雲の合間を二匹の犬は転げながら駆け回りました。

「クィーン・・・」
《ゆき》は自分の声で目が覚めました。
あれは・・・夢だったのです。
ふと見上げた先には神様の優しい瞳がありました。
「良い夢を見たかの?!」そう神様は訊ねられました。
「はい!、とっても懐かしい嬉しい気持ちになりました。」
《ゆき》は素直にそう言いました。

「のう、ゆき。少しばかりわしの話を聞かんかの・・・」
神様は何か大切なことを《ゆき》に伝えようとしています。
それは、《ゆき》の心に
トゲのように刺さっているあのことでしょうか?!
犬とは言え、神妙な顔つきで神様の顔を見上げました。

「のう、ゆき・・・
[生きる]ということを深く考えたことがあるかな?!」
「いえ・・・」小さな声でやっとそれだけ。
「おまえは地上に生まれて、マムと巡り会って
思いがけない別れを経て、天上に戻った・・・
おまえの心の中で、何かが納得いかないのであろう?!」
「・・・・」《ゆき》には答えられませんでした。
「[生きることの意味]あるいは
[生きたことの意味]を話してみようかの。」

神様はどこか遠く・・・天空の遙か彼方を見つめながら
暖かな光のような声で話されました。
「【命の連鎖】・・・少し難しいがわかるかの?!
つまり、おまえは夢に見た母から命を授かった。
そして、やがておまえも母になった・・・
命は未来永劫そうやって受け継がれていく・・・
しかし、おまえは思わぬ出来事でその命を遮断された。
ここで、【命の連鎖】は止まってしまった。
そう思うかも知れぬの。
じゃがな、本当の意味の【命の連鎖】は違うのじゃよ。」

《ゆき》はうつむいてしまいました。
確かに、神様の言うとおり
《ゆき》の命は人によって遮断されたのです。

「この天上のどこかの
お花畑にある犬たちが還ってきておる。
彼らはおまえと同じようにダッドとマムを待っておる。
それも心底待っておるんじゃよ。」
「えっ?!」神様の意外な言葉に《ゆき》はうろたえました。
この天上のどこかに、
自分と同じようにダッドとマムを待っている・・・

神様は黙って微笑みました。
そして・・・小さく円を描くと・・・
そこに見えてきたのは・・・わすれなぐさのお花畑。
《ゆき》には初めて見る犬たちが
三匹、気持ちよさそうに寝ころんでいます。
アッ!懐かしいマム達の話も聞こえてきます・・・
ゴンがどうやら落ち穂ブドウの話を・・・
クロはあきれ果てているし、
チビは嬉しそうにしっぽを振っています。

「神様、あれは・・・」
「うむ、おまえが天上に還ってから
ダッドとマムが預かった命達じゃ。
それぞれ、天上にはもう還っておるがな。」
「私がいなくなってから預かった命・・・?!」
「今、地上でのダッドとマムを覗いてみるかの?」
神様は今度は地上に向かって円を描きました。

あぁ〜、《ゆき》がいた裏庭が見えます。
エッ?庭には二匹の犬がいます。
それも、かなり大きな小屋の中に犬小屋がふたつ。
ア・ア・アッ!車庫の中にも一匹・・・
その上・・・後は《ゆき》は言葉にはなりません。
ダッドとマムの部屋には猫が沢山・・・

「驚いたであろう。」神様は笑いながら《ゆき》を見つめます。
「今、ダッドとマムは犬と猫だけで16個の命を預かっておる。
実はな、これは《ゆき》おまえとは無縁ではないのじゃ。」
どういう事なのか《ゆき》には全く解りません。
だって・・・どの犬も猫も《ゆき》には記憶にはないのですから。
「【記憶の連鎖】という意味では
おまえとは何の関係もない命達じゃ。
しかし、【命の連鎖】ではおまえとは切っては離せぬ。」
《ゆき》は益々解らなくなりました。

「ダッドとマムは無意識のうちにおまえの命に繋がる
新しい命と向き合っているんじゃよ。
二度とおまえと同じ思いをさせまいとして。
車庫の犬はおまえを捨てた堤防で拾った・・・
裏庭の二匹は堤防で拾った犬の子供と、近所の捨て犬。
猫たちは・・・家の前で行き倒れたもの、
河原に米袋に入れられて捨てられたもの・・・
みんなそんなもの達ばかりじゃ。
マムが‘孤児院’と呼ぶ所以での。
それぞれ幸せに暮らしておる。
そして、最後まで見届けて還ってきたのが天上の三匹。」

《ゆき》の眼は大きく見開いたままです。
ダッドとマム・・・
「おまえとの巡り会いがあったからこそ
地上や天上の新しい命とダッドとマムは巡り会ったんじゃよ。
おまえの【命】は決して無駄ではなかった・・・
そうは思わんかな?!」
『自分の命が無駄じゃなかった・・・
新しい命に繋がった・・・』
《ゆき》はなんだか誇らしげな気持ちになりました。
「【命の連鎖】は何も命そのものだけではない。
こういう連鎖もあるということ、解ったかな?!」
神様は眼を細めてそう言いました。

《ゆき》の心に突き刺さっていたトゲが
今スゥーッと抜けていきました。
「【記憶の連鎖】がおまえには
あのわすれなぐさのお花畑にないのが残念じゃが
少なくとも彼らの【命の連鎖】に
橋渡しをしたのはおまえであることには違いない。
堂々として、ダッドやマムを待っておれば良いんじゃよ。」

《ゆき》の頬に一筋の涙が流れました。
悲しみの涙ではありません。
自分が生きてきた意味を初めて知った歓びの涙でした。
いつか・・・ダッドとマムに巡り会ったら
その時は・・・【記憶の連鎖】で
わすれなぐさのお花畑の仲間達とも一緒になれる。
そんな気がするのです。


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