タイトル

晴ちゃんU

第一章に登場した晴ちゃん。
彼女は今も
薫子の振り向けば側にいる、とっても大切な友人の一人。
誰の人生でも、友と呼べる人はいても
生涯、それこそ何があってもつきあえるという人は
そう沢山いる訳ではない。
まして、女性の場合は結婚という節目で
環境が大きく変わってしまうから。
だからといって
晴ちゃんと薫子が密に交際していると言うことでもない。
何もないときは、それこそ1年に1度年賀状のみ。
そうやって近況報告をしながら
もうすでに40年の歳月が過ぎた・・・

夏の終わりには、彼女も頂き物だという『スダチ』が
宅急便で毎年届く。
時には笑ってしまうような物も一緒に同梱されている。

薫子は今まで、友人の誰からも『ちゃん付け』で
名前を呼ばれたことがあまりない。
なぜかずっと昔から『薫子さん』
幼心に、他のこども達より人生の重みを背負っていた薫子。
どこかちゃん付けできないものが漂っていたのだろうか?!
同年代のこども達より、ほんの少し先を歩いていた。

今年のように台風・地震と災害が多いと
ふっと思い出すのは、小学生時代のチリ沖地震・・・
あの日も太平洋側は津波が来るとらしいとかなり緊張した。
寝るときは枕元に、ランドセル・おにぎりを置いていた。
海抜ゼロメートルとまでは行かなくても
大きな津波が来れば恐らくひとたまりもなかっただろう。
幸い、そう心配したほどのこともなかったけれど。

そんな想い出にふけっていた頃、電話のベルが鳴った。
「心配ない?!」晴ちゃんからだ。
こうやって、お互い何かがあると決まって
安否確認の電話がかかる。
「大丈夫だよ」そう答える薫子に安堵したように
「よかった!」と晴ちゃんは叫ぶ。
後は世間話・・・
30分ぐらいはすぐ過ぎる・・・

薫子は思った。
確かに自分の半生は波瀾万丈と言っても良い。   
でも、違う意味で波瀾万丈な人生を彼女も歩いている。
結婚までのいきさつは第一章に書いた。
それ以後は本当は平凡な人生だったはずの晴ちゃん。
けれど、晴ちゃんにもどうしようもないことが待っていた。

ライン

こども・・・
欲しくてたまらないのに授からない人。
逆に欲しくないのに生まれてしまった命。
生まれてきた新しい命は
きっと天上では同じ重みだっただろうに
親次第で、価値観(?)が見事に変わってしまう。
薫子は自分の息子達
色々問題を引き起こす「ぼんくら」も含めて   
命としては授かったこと最高に幸せだった。
堕胎することも流産することもなく
授かった命すべて光を見た。
このことに関してはどんなに感謝したことだろう。
その上、未熟児の下のふたりさえ
大病もせず、無事成人した。

晴ちゃんは・・・
薫子より少し遅れてふたりの息子の母となった。
ところが・・・上の子供が先天性の血液の病気だった。
詳しくは聞いたことがないけれど
血小板か何かが足りないらしい・・・
何週間に一度は輸血(部分)に行かなくてはいけない。
そう言えば、彼はこどもの時から顔色が今ひとつだった。
悪さにかけてはこの上ないが、   
それでも成人するまでは国の保証があって
健康保険の支払いも少なかったらしい。
成人した今は家計に対する負担は大きい。

学生時代から、仕事に就いた今もそうらしいけれど
どこかみんなとなじめない、引っ込み思案な青年になった。
けれど、彼は結婚して一児の親となった。
・・・その生活は?
どうやら晴ちゃんの負担になっているらしい・・・
晴ちゃん自身のご主人も定収入のある仕事ではない。
晴ちゃんのご両親が残した家があるからこそ生活できる。
そう彼女は言う・・・

口にこそ出さないけれど、それぞれの家庭
覗いてみれば大なり小なりの悩みを抱えている。
その中で家族がちぐはぐにならないで
何とか支え合っていけたら幸せなんだ。
晴ちゃんを見ていて薫子はそう思った。
今にも壊れそうなあばら屋でも   
ここには借金があるわけではない。
背伸びをせず、   
分相応な生き方を晴ちゃんから学んだ薫子だった。


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