タイトル

さくら・・・

翌日、カーチは小さな桜の苗木を買ってきた。
アタイは二階の窓から、カーチが
その苗木に話しかけているのが見えたの。
『忘れないからね、ずっと忘れないからね・・・』
カーチはその苗木が
愛しくてたまらないように庭の隅に埋めた。
『来年も、再来年もずっと一緒だよ・・・』
カーチの心の中の“さくら”に話しかけていた・・・

ライン

いつか月の妖精ルナに会ったら聞いてみよう。
カーチの涙の訳を・・・
アタイはどうすればよいのか・・・
真夜中、満開の桜霞の中でアタイは、いつの間にか眠っていた。

『ニャ〜〜ン』という声にふと目を覚ましたアタイ。
ムーンロードから・・・一人の女の子が。   
さくらの花びらが風にながれて、なおいっそう白く輝いた。
女の子のうでのなかには銀色Catジジがいる。
アッ!あの時の女の子?!
でも、透き通るぐらい儚さそう・・・

『どうじゃな、Nora。元気にしておったかの?』
ジジは優しく訊ねた。ほぼ一年ぶり・・・
『うん!って、本当は言いたいけれど
なんだかカーチが大変?!
アタイはどうすればいいのかわかんない・・・』   
ジジの前でアタイは一気に昨日の出来事を話した。
横目で、ジジの後ろにいる女の子を見つめながら・・・

 ライン

『さて・・・少しだけはなそうかの、Nora。
いつか【パール・ストーン】のことを
話したのを覚えておるかな?!』
忘れるものですか
何時だって、この言葉が気になっていたんだから。
でも・・・何も起きないし、何も起こせない・・・
黙って頷いたアタイにジジは優しく言った。
『いつか山の向こうに捨てられたとき
“カーチ”が呼んでいるような気がしたと、
おまえは言っておったの。』
『そうだよ♪』
『このときからおまえは少しずつ目覚め始めていたのだよ。
幾らカーチが悩んでも、辛くても
他の猫たちには理解することなどできまい?
しかし、Nora、おまえは案じておる。
これこそが【パール・ストーン】なのじゃよ。』

『心の中に【パール・ストーン】を持っているものは
おまえだけじゃなく、他にも沢山いるはずじゃ
何しろわしは、手のひらから良くこぼしておるでの、ホホホッ!
前にも言ったが、何かをなくさねばそれは光り輝かぬ。
つまり、Nora。おまえは一度に大切なものをふたつも失った。』
『ふたつ?! アタイシッポは半分失ったけれど・・・
もう一個は何か知らないよ。』
『うむ、それはの・・・いのちを育む母の子宮じゃ。
Nora・・・おまえはもう母にはなれん。
おまえが飼い猫になるための
《トーチとカーチ》の条件だったのじゃ。
だがな、カーチは悔いておった。
人の驕りだと・・・
じゃが・・・カーチを恨むでないぞ。
《トーチとカーチ》は自分たちの出来る範囲で
いのちを助けておることは認めねばの。
ふたつのものを同時に失ったおまえは
【パール・ストーン】が勢いよく輝き始めたと言うことだろう。』

女の子は、カーチが植えた桜の苗木に
吸い込まれるように消えた。
驚いたアタイにジジは言った。
『これで良いんじゃよ。もう思い残すことはない・・・』


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