タイトル

正実(まさみ)

幼なじみではないけれど、同級生の正実。
きっと彼はワタシの事、嫌いだったと思う。
二度目の家の近く。
けれど小学校は転校せずに元の学校に歩いて通った。
だから近所にいたけれど
正実とは中学になるまで全く知り合えなかった。

ところが正実の母とワタシの母は銭湯友達。
偶然、同い年のこどもがいることを知ったおばちゃんは
銭湯でワタシにも良く話しかける。
正実のことは直接知らないけれど
何となく解ってきた。

  ライン

そんな正実とワタシは中学三年の時同じクラスになった。
正実の父はおばちゃんに姉と正実を放りつけたまま蒸発していた。
おばちゃん一人が小さな「うどんや」で頑張って育てたこと
ワタシは知っていた。
けれど・・・
そんなことまで知っているワタシは
正実にとっては嫌な存在だったのかもしれない。

隣通しの席になっても、ほとんど口をきかなかった。
例の幼なじみ達がワタシの周りには案外沢山いたので
男の子とおしゃべりをしたり、
人気者とまでは行かなくても、男の子達は
ワタシを頼ったりしていた(宿題?)
特に幼なじみ達は運動部で結構活躍していた。
運動音痴のワタシだけれども
あの日のニックネームでお互い呼び合っていた。

ところが正実と来たら・・・
確か、何かの運動部には入っていたように思うけれど
取り立てて目立つ存在ではなかった。   
と言うより、正実自身がそれほど力を入れていなかった。
勉強はTOPクラスよりちょっと下。
努力家だったことは自他共に認める。
コツコツ勉強するタイプだった。
ワタシのように『明るく・健康に!』を
半ばスローガンのようにしているのとは対照的に
何となく暗くて、つかみ所がなかった正実。

それでも家庭事情を良く飲み込んでいた彼は
工業高校を卒業すると、大阪のある市役所の職員試験にパスした。
当時でも大変難しいことだった。
きっと、これでおばちゃんも安心しているだろうなと思っていたとき
とんでもない事件が起きた。

ライン

それは、正実が結婚してこどももふたり恵まれたお盆休暇。
都会暮らしの正実はきっと性格は昔のままだったのだろう。
恋愛結婚するでもなく、田舎でお見合いをして家庭を持った。
こども達は3〜5歳だったと思う。
休暇で帰ったその日、四国には台風の風が吹き始めていた。
今でも、あの日のことを思うとなぜ?と思ってしまう。
ワタシの知っている幼なじみ達なら絶対行きはしなかった海。
しかも○○海岸・・・

翌日の新聞を何気なく見ていたワタシは
一瞬、時間が止まった。
その日は台風が上陸するかもしれないと言っていた日・・・

○○海岸で波にさらわれた親子三人

そんなトップ見出しだった。
浜でいた母親だけが助かった・・・
と言うより、海に入っていなかった。

思わず「何で〜〜っ!!」そうワタシは叫んだ。
○○海岸・・・ここは私たちの子供時代の遊び場。
でも、その分怖さも知っていた。
大人達が「ここは中深(ちゅうぶか)やけん、泳いだら行かんぞ!」
そう、こどもの時からたたき込まれていた。
遊びに行くことはあっても、泳ぐことは絶対しなかった。
中深・・・それは遠浅じゃなく、突然深くなる。
泳ぐには危険な場所。   
それに、もしかしたら正実は泳げなかったんじゃなかったかと・・・

短いお盆休暇に、こどもにせがまれたのだろうか?
正実はきっとこどもの時からいたずらをしたり
ワタシの幼なじみ達やワタシのように
【わるさ】をしなかったのだろう。
だから・・・危険を知らなかった?!
そうとしか思えない・・・
台風に荒れ狂う海から数日後3人の遺体があがった。
たった一人残された奥さんもお気の毒だけれど
おばちゃんの震える後ろ姿が瞼に浮かぶ・・・

同級生達からの電話が何度か鳴った。
ワタシは葬儀に参列することは出来なかったけれど
志を言付けた・・・
こんな事で最期なんって悔しいよ、正実。


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