タイトル

コンペイ糖の丘F

達彦も三ちゃんが就職した歳になった。
勉強も好きじゃないし、大工になろう。
家も余裕はないし、高校には行かない。
密かに心に誓っていた。
ところが・・・
ある朝、父ちゃんが仕事にでた後で
母ちゃんが言った。
「父ちゃんが、高校いけって。
どないぞなるわって・・・
これから先は高校ぐらいは出とけって、言うとった。」

にわかに、達彦の進学が決まった。
入試までそう時間はなかった。
担任も、達彦の成績には頭を抱えたけれども
何とか無事高校に受かった。

ライン

自分の勉強机の整理をしていて
達彦は見覚えのあるうす茶色に変色した封筒を見つけた。
・・・あの日ひな子が達彦に残した「コンペイ糖」
あの日と同じように、達彦はそっと開けた。
けれども「コンペイ糖」は、すっかり溶けて形が変わっていた。
とても食べることが出来ず、机の奥にしまった「コンペイ糖」
懐かしさで、胸がいっぱいになった。

ふと、
あのとき言いそびれていた言葉を思い出したような気がした。
「ちょっと出てくる」
母ちゃんにそう告げると
達彦はあの懐かしい「コンペイ糖の丘」を目指した。
いつの間にかこども達も山に行かなくなっていた。
テレビがだんだん普及し始めて
こども達はテレビのある家に集まる。
ほんのわずかだけれど、お小遣いももらえるようになってきた。
そう、時代は少しずつ変わっていった。

「どこ行くん?」
そう訊ねた母ちゃんに
達彦は迷うことなく「コンペイ糖の丘」と返事をした。
残った母ちゃんは、一人笑いながら小さくこう言った。
「母ちゃん、おまえの初恋仕掛け人だものね。」

今年も「コンペイ糖」は一杯咲いていた。
あれっきりひな子のことは何も聞かないけれど
オレ、おまえに言っておきたいことがあった。
やっと、気付いた。

コンペイ糖の丘にひな子から貰った「コンペイ糖」
透明の袋の中でひとつの固まりになっていた。
それをそっとその花の下に埋めると
丘から里に向かって大声で叫んだ。

「ひなこ〜〜、あんとき、嫁さんにしても良いと思とった〜〜」


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