タイトル

コンペイ糖の丘E

あれは、小学6年の夏休みに入ってすぐだったと思う。
前のばばさまの家に上品そうな婦人と
3年生ぐらいの女の子が訪ねてきた。
やがて、ひな子も一緒にどこかに出て行った。
二週間ほどひな子は帰って来なかった。

帰ってきたひな子に
「どこいっとったん?」
みんなが口々に訊ねていたけれど
達彦は何となく聞きそびれていた。
どこか街に行っていたらしい・・・

ライン

いつもと変わらない夏休みが無事終わろうとしたある日
山の中で遊んでいた達彦に
近所のこども達が「ひな子、達彦の嫁さんみたい。」
ふっと、そう言いだしてはやし立てた。
いつも、達彦の後から黙って歩くひな子。
小さなこども達の目にもそんな風に見えたのかもしれない。
「あほいうな、ひな子や嫁さんにもろたら困るわ〜。」
何に困るのか自分でも解らなかったけれど
照れくささで、思わずそう言った達彦。
もう思春期が目の前だった・・・
その時のひな子の気持ちは?
もう聞くすべはないけれど、ふと気になった。

最後の日曜日の朝、   
いつものように山に向かう達彦に
母ちゃんが「ひな子にサヨナラ言わんでええの?」と言った。
何かでガツンと頭を殴られた気がした。
「え〜??ひな子どっか行くん?」
そう聞き返した達彦に母ちゃんは
「あらだ、おまえ何も知らんかったんかいな。
ひな子は二学期からひな子の母ちゃんの家に引っ越すんでよ。」
突然だった・・・
ひな子はなにも言わなかった。   
それがなぜか無性に悔しかった。
「オレ、関係ないけん・・・」そう言って
達彦は健太と下の弟、康夫を連れて走った。
絶対後ろ振り向かんぞと思いながら。
なぜか涙がひとしずく頬を流れた・・・

その日の山遊びは少しも面白くなかった。
ひな子がいないこともそうだったけれど
なぜか、心の中がもやもやして
遊ぼうという気持ちになれなかった

夕方帰った達彦に母ちゃんが白い封筒を差し出した。
「ひな子が、おまえにって。」
そっと開けた封筒の中には
初めて見た「コンペイ糖」が入っていた。
手紙も何もない、
小さな透明の袋に七色の宝石・・・
「母ちゃん、ひな子どっちへ行ったん?!」
今更言っても遅いことは解っていたけれど
思わず達彦は母ちゃんに聞いた。

その夜、達彦は母ちゃんから事の次第を聞いた。
夏休みに入ってすぐ前に訪ねてきたふたりは
ひな子の妹と死んだひな子の母親の親、
つまりひな子のばあちゃんだった。
ひな子の母ちゃんが死んだとき
妹は乳飲み子だったので   
そのままばあちゃんの所に残ったらしい。
こちらの状況を色々心配したばあちゃんは
どうやら、ひな子も引き取りたいと訪ねてきたらしい。
前のばばさまは、ひな子だけでなく
息子(二男)も一緒ならと返事をしたらしい。
ばばさまにとっては、ある意味で厄払いになった。

最初は渋っていたひな子も
2週間ほどあちらで暮らして決断したしたらしい。
妹と暮らす・・・と言うことに。
母ちゃんは言った。
「ひな子はね、おまえが健太や康夫を連れて
遊んでいるのが羨ましかったんじゃと。
そう最後に言っとたよ。」
「ふ〜〜ん・・・」
どうでも良いような返事をして達彦は布団に入った。

ひな子・・・
突然現れて、突然去った。
心のどこかに何か言い忘れたようなことがある気がした。


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