タイトル

コンペイ糖の丘D

「きれい・・・・」
ひな子が立ち止まった。
そこはほとんど雑草で覆われた小高い丘。
と言うより
恐らくそこは元は蜜柑畑なのだろうけれど
すっかり手入れされず、荒放題になっていた。
丘というより、草で埋もれていた・・・
達彦達は何度そこを通っても
ひな子のように「きれい・・・」とは思わなかった。
ただ、毎日見る当たり前の風景。

「まるで、コンペイ糖みたい・・・」
そうひな子が言ったとき、こども達が一斉に声を上げた
「エェッ〜!金平糖?!」
そこには赤ん坊の小指の先ほどの
小さなピンク色の花が咲いていた。
ひな子の知っている「コンペイ糖」と
こども達の知っている「金平糖」とでは
天と地ほどの開きがあった。

ひな子の知っている「コンペイ糖」
それは小さな小さな、七色の砂糖菓子。
口に含めば、とても幸せな気持ちにしてくれる・・・
そんなおとぎ話のようなお菓子だった。
・・・こども達の知っている「金平糖」
それは、もう今では珍しい田舎菓子。
もちろん砂糖菓子なんだけれども
親指ほどの真っ白なイガイガの砂糖菓子。
中には桂支(ニッキ)が入っていて独特な味。
どちらかというと、
前のばばさまがほおばっていそうな代物だった。

「よっしゃ、ひな子がそう言うんだったら、
今日からここは<コンペイ糖の丘>じゃ!」
三ちゃんの明るい声が響いた。
「俺が就職したら、みんなにイ〜〜ッパイ買うて来たる。」
その日の三ちゃんは、えらく気前の良いことを言った。

ひな子はこの花の名前を調べてすっかりしょげ込んだ。
「ままこのしりぬぐい」
誰が名付けたか知らないけれど
もそっとましな名前はなかったのかと達彦でさえ思った。
そう言えば、可愛いベルのような葛
あれも「へくそかずら」などというありがたくない名前。
だいたい昔の学者なんって感性がなかったんだ。
ひな子でなくてもそう思わずにはいられなかった。

 ライン

それから何度かの夏が過ぎて
三ちゃんは当時<金の卵>と言うぐらい重宝されて
中学を出ると都会に就職した。
けれど・・・
三ちゃんの頭からは「コンペイ糖」はすっかり消えていた。

ガキ大将も何人か変わったけれど
こども達の遊びは変わらなかった。
そう言えば・・・
三ちゃんが一度だけ大声で悔やんで泣いたことがあった。
三ちゃんちの三軒向こうの進一の弟
良和がため池でおぼれて死んだ日・・・

その日もみんなで山に行ったけれど   
三ちゃんは進一に「良は?」と訊ねていた。
「熱だしとうけん、母ちゃんが置いていけって」
夕方帰ってみると大人達が良和がいないと捜していた。
もしかして?
三ちゃんはため池に走った・・・
そこに小さなゴム草履が浮いていた
三ちゃんは膝をガクッと折った。
「連れて行ったら良かった・・・」


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