タイトル

コンペイ糖の丘C

その夜、達彦が拾ってきた薪をくべながら母ちゃんが言った。
「ひな子、喜んどった?」
ジワッと下から沸いてくる五右衛門風呂に
達彦と健太は身を沈めていた。
「うん! 道でないところ歩いたん初めてだって。」
「そりゃそうだ、今まで都会でいたんだからね。
怪我せんように、気つけてな。」
そう母ちゃんは言った。
寝るまで、気持ちもホコホコだったのは
五右衛門風呂に入っただけではない   
そんな一日だった・・・

ライン

最初はみんなに付いていくのが、精一杯だったひな子。
回を重ねるごとに余裕が出てきたのか
周りの景色に目を奪われるようになった。
小さな山の花に目を止めるたび
達彦に聞く。
「かわいい〜〜、タッちゃん、これなんって言うお花?」
「しらん、山の花。
花の名前まで知るかよ。
みんな適当に呼んどる・・・」
ブスッとして達彦は答えた。
だから、女は面倒くさい。
なんの名前なんって細かいこと良いじゃんか。
花は花、草は草。   
三ちゃんが教えてくれた以外知るか。
そう達彦は心の中で思った。

谷川の流れで、水遊びに興じているこども達。
ほとんどスッポンポン!
何度も岩場から飛び降りている。
でも、このとき三ちゃんは
決してただ遊んでいるだけではなかった。
四方八方目を配り、こども達の安全を確認していた。
もし、水から浮いてこない子供がいたら
三ちゃんは大声を出して飛び込むつもりだ。

水遊びに厭きたこども達は
近くの林でドングリの実を拾うのに夢中になっている。
ひな子はドングリの実を見るのは初めてだった。
秋ほど熟れたドングリではないけれど
夏休みの終わりには、まだ青いドングリが   
風が強く吹いた翌日には沢山落ちている。
クヌギや樫の木のドングリ
同じドングリでもずいぶん大きさの違うことも知った。

それにね、
柴栗・・・もう一杯落ちている。
生で食べるなんって思いもしなかった、ひな子。
お腹がすいてきたこども達はイガを足で踏んづけて
実を取り出すと、器用に手でむいて食べ始めた。
ちょっと堅いけれど、ほんのり甘い香りが口中に広がった。

それからしばらくすると・・・
ひな子は、道々、健太に花の名前を教えるようになった。
あれ?っと思った達彦はそっと訊ねた。
「何で知っとん?!」
ひな子は小さくうつむいて
「学校の図書館で調べた・・・」そう言った。
その日から花の名前は
三ちゃんでなく、ひな子にみんなが聞くようになった。
小さな植物学者の誕生だった。


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