タイトル

コンペイ糖の丘B

明くる朝、「たつひこ〜〜ぉ!」
いつもの母ちゃんの声に家を飛び出した。
驚いたことに、達彦の家の前にひな子が立っていた。
「うわっ!びっくりした。」
ひな子は、はにかんだように微笑んだ。

「ひな子はもうずいぶん前から待っとるよ。
さぁ、行っといで!
そうだ、達彦、風呂の薪がもう無いよ、
帰りに拾っといで。」
母ちゃんは洗濯しながらそう言った。
「うん、解った。ひな子、行くぞ〜」
そう言うと達彦は健太の手を引っ張って走った。
その後をひな子が飛ぶようにしてついて行った。

母ちゃんは洗濯板をこすりながら   
帰ってきたこども達の顔を想像して
「クスッ」と笑った。
石けんの泡だらけの手を額にかざすと、
真夏の太陽が今日もまぶしく輝いた。

  ライン

三ちゃんを先頭に、あっちこっちからこども達が集まってくる。
「三ちゃん、前のひな子。」
「おぅ、おまえがひな子か?しっかり歩けよ!」
里から、山道にはいるまでにひとかたまりの集団が出来た。
いつものメンバーがそろったところで
三ちゃんが言った。
「今日から、達彦んちの前のひな子が増えた。
喧嘩するな〜〜!」
・・・って、三ちゃん。

ひな子は初めての山道(時には道なき道を歩く)に
何とか遅れまいと必死だった。
それを見ていた三ちゃんが
ふと立ち止まって、こう言った。

「今から歌を教えるぞ〜、みんなで歌いながら歩く。
良いか〜〜?!」
誰も異議を唱える者はいない。
だって、この日の三ちゃんは先生よりも偉い。

「良いか、我は山の子って言う歌だ!
わ〜〜れは や〜〜まのこ げ〜〜んきなこ
か〜〜わに と〜〜びこみ あそぶんだ   
せ〜〜みや ば〜〜ったを お〜〜いかけて
きょ〜〜おぉも い〜〜ちにち ありがとう」

なんのことない『我は海の子』の替え歌だった。
けれど、達彦も含めてほとんどのこども達が
替え歌と知らずに必死で覚えた。
ずいぶん後になって、あの日の三ちゃん
どんな気持ちだったんだろうって
思い出すたびに笑いが止まらなかった。

その歌のお陰かどうかは解らなかったけれど
歌いながら進む山道は
一番最後になったひな子でも充分ついてこられた。
いつの間にか、健太はひな子が手を繋いでいた。


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