タイトル

コンペイ糖の丘A

夏休み・・・
半ズボンとシャツ一枚のこども達が
連れ立って山にはいる。
喉が渇けば谷川には水が流れている。
岩場から川に足からドボン!
危険だって?
そんな言葉なんってあったのかな?
ここで、泳ぎを覚えなかったら
みんなと遊べない。   
メンコやゴマは面白いけれど・・・
手に入れるにはお金がいる。
山の子は、山が友達
そう、きっと海の子は海が友達。

ライン

ある日の夕方、母ちゃんが達彦を呼んだ。
「前のひな子も一緒に山へ連れて行ってやりな。」
「えっ〜!!」
思わず達彦は不満そうな声を上げた。

ひな子・・・
今年の春、本州のある街から転校してきた。
見るからにひ弱そうで、どこか言葉遣いも違う。
達彦のクラスに先生と入ってきたとき
嫌な予感がした。
案の定、貞子先生は
「達彦、おまえんちの前じゃけん、よう教えたれ」
そう言って、達彦と同じ机に座らせた。

実は、達彦はひな子が苦手だった。
何を聞いても「うん・・・」
ひな子はほとんど口をきかなかった。
そんなひな子を休みの日まで
山に連れて行けと母ちゃんは言う。
何とも言えない目で母ちゃんを見上げた。

「おまえの考えとることぐらい、母ちゃんわかっとる。
でもな、ひな子はおまえ達が出て行った後
納屋の影からずっと、見送っとるんよ。
きっと行きたいんだわ。」
「ほなけんど(けれど)、母ちゃん
ひな子や連れて行っきょったら、ますます遅れるわ!
ほれでのうても(それでなくても)健太が遅れるのに・・・」
不満たらたらで訴える達彦に母ちゃんはこう言った。
「おまえが、ひな子だったらどう?   
知らん土地で友達もない・・・寂しかろ?!」

この母ちゃんの言葉に達彦は何も言い返せなかった。
「・・・解った」
母ちゃんは満面の笑みを浮かべて
達彦の頭に手を置いた。
「急に言ってもあかん(いけない)
今から行って、声かけときな。
父ちゃんにも断っとかないかんじゃろ。」

母ちゃんはいとも簡単に言うけれど
前の家に行くのは好きじゃない。   
前のばばさまはいつもこう言うのだ。
「おまはんくは(あなたの家は)財産(田畑)ないけん・・・」
確かに達彦の家はみすぼらしい家の横に
少しばかりの畑があるだけで農家ではない。
父ちゃんは日雇い仕事をしている。

ひな子はこのばばさまの二番目の息子の子供だった。
長男が家督を継いで、ブドウや米を作っている。
ひな子の父親は都会で働いて結婚していた。
ところが・・・ひな子の母親が病気(結核)で   
あっけなく逝ってしまった。
小さな子供を抱えて仕事も出来ず、ふるさとに戻った。
ただ、戻ったふるさとは以前とは違っていた。
兄嫁もいれば、子供もいる。
決して豊かではない。
もちろん母屋で生活することは許されないし
仕事のないひな子の父親は居候、納屋住まい。   
当然ひな子への風当たりもきつい。
ご飯だって、充分食べているのかどうか・・・

渋々、前の家に入っていく達彦を母ちゃんは優しく見つめていた。   
軒先に例の白髪のばばさま。
「なんぞ、用事か?」
このばばさまは人を盗人みたいな目で見る。
嫌なばばさまだ。
「ひな子に用がある・・・」
そう告げると、怪訝そうな顔をしながらも
ひな子を呼んでくれた。

納屋から出てきたひな子は
達彦を見て意外そうな顔をした。
ばばさまの顔を見て「ビクッ」としたひな子。
「前の達彦がおまん(あなた)に用があるとよ。」
そう一言、言い終えると
ドッコイショとばかり腰を上げて中に入った。

「・・・なに?」
消え入りそうな声で、ひな子はやっとそれだけ言った。
「明日、みんなと山へ行くけんどおまえも行くか?」
一瞬、ひな子は時間が止まったような顔をした。
「行ってもええん(いいの)?」
「うん、三ちゃんには僕から言うたる。
その替わり、夕方まで帰らんぞ、父ちゃんに言うとけ。」
それだけ言うと、達彦はクルッと向きを変えて走った。
ひな子の頬がサァ〜ッとピンク色に染まったのが
何となく照れくさかったのだ。

 

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