タイトル

ムーン・ストーリー(May)

今夜は満月なのに・・・
ミーシャは忘れてしまったのでしょうか?
小窓には爽やかな五月の風が流れています。
でも、ミーシャーはお母さんのお布団の中で
もう・・・夢の中です。

ライン

〈メール〉

お母さんが、小窓の横を通り過ぎようとしたとき
古いパソコンのスイッチが入りました。
「ブーン・パシャッ・・・」
画面が明るくなってきました。
『えっ!?』
お母さんは驚いて振り返りました。

実はこのパソコンはずいぶん前から電源が抜かれているのです。
立ち止まってしまったお母さんの眼に写ったのは・・・
“新着メールが1通あります”というお知らせ小窓でした。
『まさか?』
お母さんは急いでマウスをクリックしました。

開いた画面には
お母さんの、大切な大切なお兄さんからの
メールが届いていました。

【 おとうさん・おかあさんへ
   お元気ですか?
   僕も元気です。
   突然で、何もかも急でしたね。
   僕もこちらに来て、初めて何が起こったか知りました。
   でも、毎日楽しくゆったりとした
   時間が過ぎていきます。   

   明日は、いよいよ温泉に行きます。
   そこで、心を解き放してきたいと思います。
   もうすぐ・・・帰りますからね。
   では、おとうさん、おかあさん
   お身体大切に、お休みなさい。
                   ***   】

お母さんの瞳はみるみる涙で溢れました。
喉の奥から声にならない嗚咽が・・・
何度も何度も読み返しました。

ふと振り返るとお父さんが立っていました。
「お父さん・・・」
お父さんも小さくうなずきました。
お母さんは、お父さんの細い小さな眼にも
涙が溢れているのが解りました。

「いつ、書いたものだろうね?
初めて転勤したときのかな、気が付かなかったね・・・」
そう言って優しくお母さんの肩を抱き寄せました。

明くる日、お母さんはもう一度
お兄さんからのメールを読んで見たくなって
パソコンのスイッチを入れました。
でも・・・パソコンは『ブーン』と音がするだけで
画面は真っ黒のままでした。

この古いパソコンはお兄さんがお母さんに買ってくれた物でした。
ふとお母さんは、お兄さんが天国から
メールを送ったのではないかしら?と思いました。
そう言えば・・・お兄さんが逝ってまもなく二年です・・・

ミーシャは小窓のベッドで
五月の風に揺られながら・・・お昼寝です。


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