タイトル

ムーン・ストーリー(Mar)

今日はいつもの定期検診の日です。
毎月一度、ミーシャは
お父さん・お母さんに連れられて動物病院へ行きます。
「体重も少しずつ増えてきているし、大丈夫ですよ。」
先生から、今月もまずまずのご返事がありました。

お母さんは嬉しそうにニコニコしています。
ミーシャは本当は毎月のこの検診は好きではありません。
片道30分の車に乗るのも苦手です。
血液検査で少し痛い目にあうのも・・・ネッ
でも、ミーシャには毎月の検診は欠かせません。
ミーシャはいつも病気と隣り合わせです。
でも、お父さん・お母さん&先生のお陰で
最近はとても元気になりました。

診察が終わって帰ろうとしたとき
受付にひとりの小母さんが
バスケットを抱えてやってきました。
待合室の椅子の上に
ミーシャのバスケットと並んで置きました。

ミーシャがふとそのバスケットを覗くと
一匹の小さな虎猫が震えながら鳴いています。
「ミャーン・ミャーン」
「ミュー・・・」
ミーシャは『どうしたの?』と尋ねました。
『捕まったの〜、怖いよ〜〜』
その猫は必死になって鳴き続けています。

病院に来たのに・・・この猫はなぜ怖いんだろう・・・
ミーシャはそう思いました。
だって、ここはミーシャにとって好きではないけれど
とても大切なところなのです。

帰りの車のなかで、お母さんは
「あの猫ちゃん、良い人に巡り会ったわね。」
そう、お父さんと話しています。
ミーシャには何がなんだか解らなくなりました。

ライン

さて、今夜は満月・・・
ミーシャは今日会った、小さな虎猫が気になっていました。
お月様、教えてくれるかなぁ?
そして小窓に座って夜空を見上げました。
3月とはいえ、北国の空はまだまだ冬の空です。

〈ノラ〉

〈ノラ〉は生まれたときから野良猫です。
お母さんがどこから餌を運んでくれていました。
でも・・・ある時、幾ら待ってもお母さんは帰ってきませんでした。
兄弟達と声を合わせて「ミャーン・ミャーン」
『おかあさん〜』と呼んでも・・・
とうとう帰ってきませんでした。

恐る恐る、兄弟達とお家の縁の下から出てきました。
だって・・・お腹がとてもすいているんですもの。
お母さんが帰ってこなくなって、何も食べていません。
「ミャーン・ミャーン」   
『お腹すいたよ〜〜』そう言いながら歩いていました。
でも・・・気が付いたときには〈ノラ〉ひとりになっていました。
他の兄弟とはぐれてしまったのです。
多分・・・もう二度と会えません。

あるお家の前で鳴いていたら
「お腹すいているのかい、餌をあげるからどこかへお行き。」
そう言って煮干しを4〜5匹投げてくれました。
「ムニヤ・ムニヤ・・」
〈ノラ〉はこの日初めてお母さん以外から餌を貰いました。
味なんって解りません、とにかくお腹が欲していたのです。

どこかの荷物の陰で寝たり、虫を捕ったり・・・
そうしているうちに〈ノラ〉は色んな事を学びました。
『餌ちょうだい・・』って鳴けば餌をくれる人
「シィ・シィッ」と追い払う人。
いつの間にか〈ノラ〉は見分けが出来るようになりました。

一度、あるお家の縁側に上がって寝ていました。
綺麗な飼い猫がいつものんびり毛繕いしているのが
〈ノラ〉にはとても羨ましかったのです。
何もしなくても、食べ物と・寝床・・・
それは〈ノラ〉にとって夢の世界です。
そこの奥さんが見つけて言いました。
「図々しい野良猫ね!」
やっぱり・・・野良猫はお家にはあがれないのです。

そんな〈ノラ〉の生活が一転するほどの大事件が起きました。
〈ノラ〉は交通事故にあったのです。
幸い命には別状なかったのですが、
〈ノラ〉のしっぽが・・・
車のタイヤに轢かれたしっぽは赤くただれて
何度自分でナメナメしてもいっこうに良くなりません。
見た目にも汚い猫になってしまいました。

いつの間にか、今まで餌をくれていた人も
「汚い!向こうへお行き!」
そう言うようになって餌もあたらなくなりました。

そのときフッと思い出しました。
二階の窓から何匹もの猫が顔を出しているお家を・・・
「そうだ、あそこへ行ってみよう!」
痛みが残ったしっぽはいつまでもヒリヒリします。

思った通り・・・そこのご主人も、奥さんも餌をくれました。
だんだん慣れてきて甘えることも出来るようになりました。
ところがある日、奥さんが意を決したように
〈ノラ〉を捕まえたのです?!
『エッ、何??』

麻酔から醒めた〈ノラ〉は
しっぽに包帯が巻かれているのが解りました。
それと・・・お腹も痛い・・・

夕方動物病院に迎えに来た奥さんは
おびえた眼の〈ノラ〉に優しく言いました。
「ごめんね、痛いめさせて・・・
あなたには迷惑かもしれないけれど
今夜からうちの子よ。
元野良猫さんの先輩がいっぱいいるけれど仲良くね。」

奥さんはご主人と相談して
〈ノラ〉のしっぽ の切断手術と避妊手術をお願いしたのです。
〈ノラ〉は自分が飼い猫になったのがとても不思議でした。
望んだことはあったけれど・・・
もう子猫でない〈ノラ〉には叶えられない夢だと思っていました。

・・・それでも、なくなってしまった自由が
時々恋しくなる〈ノラ〉でした。


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