(4)召還令状

やがて、季節は新緑の季節へと進みました。
カーチはネコをのぞき込むと小さな声でつぶやきました。

「 もう、そんなに長くないね カーチの側でいるの・・・ 」

カーチは涙こそ見せませんが、ネコが急激に痩せてきたのが分かりました。
二十二年・・・人間の世界の齢と換算すると、とうに百歳は越えているはずです。
この夏の暑さが耐えられるかしら? 一寸心配になったカーチです。

そして、極暑の四国の夏・・・
毎年、扇風機だけが勢いよく回っていましたが
この夏はPC部屋にエアコンのスイッチが入りました。
狭い部屋だから、エアコン稼働しても最低限で済むだろうというカーチの考え。
5匹の猫たちはそれぞれ、一番涼しい場所を見つけて一夏を終えました。
今年の夏は結構残暑が続いたのです。
やっと涼しい季節がもうすぐやってきます。

汗ばむ季節から、少しだけ心地良い10月に入った深夜・・・
カーチの懐で寝ていたネコは神様の声を聞きました。

「 ネコや、よう頑張ったの もうすぐ天上に還る日が近づいた。
そこで、わしはおまえにひとつ訊ねたい。
誰を迎えに寄越せば良いかの?! 」

ネコはこの日が来ることは覚悟していました。
今はまだ何とかカーチのお布団に潜り込むことも出来ますが
きっと、近いうちに出来なくなる事・・・

「 神様・・・僕は・・・あの古いお家が良い。
今にも壊れそうなお家だったけれど、あのお家には笑い声がいつも響いていた。
トーチもカーチもいて、総勢十三匹の猫たち、階下には滅多に会わない犬たちもいた。
あのお家で、みんなと再会したい。

だから、僕の迎えはあのお家・・・眠る家がいい。」

ネコはウツラウツラ半覚醒状態で神様と話しているようでした。

神様が優しい顔でうなずかれたこともネコは知りません。
きっと、朝になっても神様のことは頭から消えていることでしょう。


ライン

天上の神様の執務室、神様は一枚の召還令状を書き終えました。
でも・・・日付は書き込まれませんでした。
その令状をクルクルと巻き終えると、神様はわすれなぐさのお花畑に急ぎます。

お花畑で遊んでいた犬や猫、そしてトーチも一瞬固まりました。
そう、みんな分かっているんです。ネコを迎えに行く日が近づいたこと・・・
心の中で、誰が迎えに行くんだろう? ネコは誰を希望したんだろう?
内心、それぞれが絶対自分だ!と思っているのは確かなようです。

でも、神様がその令状を渡した相手を見て、全員があんぐり口を開けたままでした。
それはトーチでもなくコロコロでもなく・・・と言うより生き物?じゃなかったのです。
最初、神様が「眠る家」と呼ばれた時、みんなは神様が何を言っているのか理解出来ませんでした。
しかし、神様がその「眠る家」の正体を明かしたとき、納得がいきました。

「眠る家」は懐かしいあの旧宅だったのです。
汚くて、今にも壊れそうなお家でしたがみんなが暮らしたお家
寒い日はストーブの前に我先にと座り込んだり
トーチの膝の上で寝込んだり
腕白息子達のおもちゃにもなった・・・
今はもう無くなってしまったけれど、一番帰りたいお家。
やっと、ネコが選んだ意味が分かりました。

今まで、側に居ても少しも気づかなかった「眠る家」
僕らはあのお家があったから出会えたんだよね。
誰からともなく、姿形のない「眠る家」に有難うの言葉をかけました。
うん!ネコのお迎えは「眠る家」に任せよう。
そして、ネコが還ってきたら、眠る家で一緒にカーチを待とう!!

実のところ、「眠る家」は恐縮しすぎてなかなか神様から召還令状を受け取ることができませんでした。
それでも、みんなの『眠る家で一緒に暮らそう。』という言葉に何より感激しました。
まさか、自分にこんな使命が下るとはそれこそ夢にも思いませんでした。

でも・・・神様が「 ネコが望んでいることなのじゃ 」

そう言われたことが、胸一杯に広がっていきました。
精霊にも出来る事はあるんだ・・・ちょっと嬉しくなった「眠る家」。



HOME NEXT