タイトル

晴ちゃん

晴ちゃんのことを親友と呼ぶか、どうか迷ったけれど
とりあえず他を探しても誰もいないし
そんなに深く薫子の人生に関わったわけではないけれど
なぜか中二からずっと、
気がつけば晴ちゃんが後ろにいた。
そう、人生の半分が過ぎてなお交流が続いている。
ある意味でひとりっ子同士のふたりが
姉妹を演じているのかもしれない。
姉・・・薫子
妹・・・晴ちゃん

晴ちゃんは中学時代<ブーちゃん>と呼ばれていた。
背はそう高くはなかったけれど・・・
その替わり、横幅だけはしっかり取っていた。
バレーボール部に所属していて
練習で真っ黒になった顔から
大きな瞳と白い歯が「ニッ」と笑った。
当時のバレーボールは9人制で、練習はもちろん外。
運動場の片隅、テニスコートの横がバレーコートだった。
早朝・放課後かなりの練習をしていたと思う。

実は薫子も入学当初、ある運動部に入部した。
その実力の差に唖然として
ほんの二ヶ月でさっさと退部してしまった。
きっと、顧問は薫子の名前さえ覚えていない。

晴ちゃんは薫子のクラスメートの友人だった。
というか、そのクラスメートはバレー部の仲間だった。
そんなきっかけで晴ちゃんを知った。
晴ちゃんのお父さんは国鉄に勤めていて
お母さんは某国立病院の受付事務をしていた。
晴ちゃんはその頃囁かれ始めていた<かぎっこ>だった。
薫子の両親と年が近かったこともあって
急速に親しくなった。
(そんなことがあるかどうか、ちょっと不安だけれども・・・
平均的な親より10歳は上だったのは確かだった。)

<ブーちゃん>・・・今ならいじめと受け止めかねない
この言葉も彼女は『アイヨ!』とばかり笑顔で応える。
<ブーちゃん>が<ブーちゃん>でなくなったのは
高校在学中か、社会人になってか良く覚えていない。
ただ、ご両親の前でもこう呼んでいたのを
ある日を境に<晴ちゃん>に変わった。

そして、この晴ちゃん。時には薫子の想像を絶する行動をする。
まず最初、
多分高一の冬だったと思う。
晴ちゃんと薫子は別の高校だった。
晴ちゃんは普通課、薫子は商業科
それでも勉強の苦手な晴ちゃんは短大を卒業するまで
薫子に『教えて♪』と例の笑顔でくる。
ある日・・・真剣な顔で彼女は言った。
「薫子、お願い。代筆!!」
不審がる薫子にラブレターの代筆を頼んだ。
ところが・・・薫子にだって
ラブレターなど書いたことがない。
高三の魅力的な彼氏からは
その後丁重なお断りの手紙が届いた。
薫子なら・・・しばらくは立ち上がれないところだけれども
晴ちゃんはいとも簡単に立ち上がった。
「次・次・・・♪」

社会人になった晴ちゃん。
とんでもないことが待ち受けていた。
上司との不倫・・・
ご両親を絶望の淵へ追い込んだこの事件は
薫子が結婚した年に起こった。
真夜中に電話が鳴った。
晴ちゃんからだった。
「今から行くから泊めて・・・」
「晴ちゃんひとりなら良いよ」と応えた薫子。
玄関の鍵は朝まではずされていたけれど・・・
その夜晴ちゃんが来ることはなかった。

今頃になって晴ちゃんはカラカラ笑いながら言う。
「何でだろうねぇ・・・あの頃って反対されればされるほど
エネルギーがわいていたのよね。たいした人じゃなかったのに。」

そして今度は<社交ダンス>を始めた。
何とかずっと年上のおじさまと別れた晴ちゃんに
ご両親はもう何も言わなかった。
しばらくして・・・
そこで知り合った、年下の彼氏と結婚した。
養子娘だった晴ちゃんは目的を達した。
あれだけ結婚が遅れることを案じ続けた
ご両親は彼岸へと逝ってしまわれたけれど・・・
彼女は今年バァバになった。

これは薫子にはまだ経験できないことだった。


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