タイトル

花火

   

弓彦と薫子・・・
【ぼんくら】=長男 に本当にどんな後ろ姿を見せていたのだろう。
常識と言う言葉が欠落しているようにさえ思う。
けれども、《サラ金》であれだけの借金をしても
彼の持ち物は何一つ増えてはいない。
着る物にしても、ずいぶん前に買ってやった洗いざらし。
若者に似合わない【じじむさい】格好・・・

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帰郷して半年、やっと職が見つかった。
ある、老人介護センターの厨房。
薫子の軽四は彼の通勤車に変わった。
半年辛抱すれば正社員にしてくれるという。
贅沢を言えばきりがないけれど、やり直しの人生には良いかも。

不定期な時間帯だけれども、仕事自体は嫌いじゃないらしく
毎日まじめに行っている。
本人の顔を見れば
ふと、消えてしまったお金の愚痴も言いたくなる弓彦だけれど
養母の言う「居候が増えた・・・』状態は何とかうまくいくはずだった。

ところが、いつまでたっても正社員にならない。
1年が過ぎた・・・
また何か・・・心の中に小さな不安の種。
ある日、突然「社員になれないから辞めた」と言った。
「そう・・・でも遊んでいても困るわよ。」
いったん躓くと、なかなか普通の道は歩けないのかなとも思った。

しかし、彼はまたとてつもないことをやった・・・   
もちろん褒めるべき事ではない。
ちょうど27歳の誕生日、またしてもいなくなった。
携帯に電話をしても出ない。
今度はこちらも腰を据えた・・・
たとえ、どこでのたれ死にしようとかまわない。
大の男が自分で選んだ道だから。
何かあれば、どこかから連絡があるわ、そう薫子は思った。

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およそ10日後、長野県の某警察署から電話があった。
それは事件ではなく、【ぼんくら】が助けに駆け込んだらしい。
同年代らしい部長さんはそれでも優しくこう言った。
「親御さんに黙って出てきているらしいので急いで連絡させました。
お金を一万円貸しますからそれで帰させます。」
一晩留置所にでも寝かせておいてくれと
頼む薫子に笑って断った・・・
でも、一万円では途中までしか帰れない。

またしても、弓彦と薫子の深夜の高速道路走行が始まった。
この日も弓彦は勤務中だった。
名古屋駅に着いたのが真夜中の12時を過ぎていた。
それでも駅前には若者がたくさんたむろして
すぐには見つからない。
やっと見つけた【ぼんくら】は髪を染めていた。

警察の連絡で一緒に来た女の子に捨てられたと聞いた。
情けなさで、涙さえ出ない。
が・・・いざ話を聞くとなぜかかばう。
なぜ??

「もしかしたら、家庭持ち?」薫子はとっさに訪ねた。
あの日裏に軽四が一台止まっていた。
車内の女性はおばさんぽい感じだった。
まさかあの人?!
「そう・・・」
【ぼんくら】の消え入りそうな声が車内に残った。

厨房のパートのおばさんで色々相談にのっているうちに・・・
なってはならない関係になった。
相手は死ぬつもりだった。
けれど、途中から子供のことが心配で帰りたがった・・・
【ぼんくら】は・・・死ぬのは嫌だけれど、 帰るのも嫌。
帰る口実ほしさに、相手の車から降りて放って行かれたと   
警察に駆け込んだ・・・
情けないけれど、こういう結果だった。

会社を辞めた理由も、相手のご主人側に脅かされたらしい。
何と言うことを・・・
人様の家庭を壊した、まして子供もいるのに・・・
驚くべき事は相手は【ぼんくら】よりも 13年上。
薫子より10歳年下だった。

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前回同様一睡もせずそのまま帰宅した。
数時間後、相手の女性が母親と一緒にやってきた。
このとき薫子が、「息子をだまして〜〜!」と
それこそ泣きわめいたら、別れていたかもしれない。
たとえ相手が元の鞘に納まらなくても。
けれども、弓彦も薫子も出来なかった。
老いた母と並んで座った彼女は家庭には戻らないと言った。
こんな【ぼんくら】でも良いのか?
何度も訪ねたけれど、「これから先彼と子供とで生きていきた。」』と

こんな事が本当にうまくいくかどうか大いに疑問だけれど
乗りかかった船・・・仕方ないそう思った、弓彦と薫子。
いつまでも逃げていては解決にならないので
本気なら弁護士をとおして話を進めるこを勧めた。
いつ話し合いが終わるか解らないけれど・・・

三人の子供のうち、二人(14歳・・姉 10歳・・弟)が
ある夜、母を頼って家出した。
警察に保護されたとき両手背中に、
持てるだけの荷物を持っていたと言う。
やがて【ぼんくら】と会った子供達は
「お父さんになって・・・」と言った。
今、【ぼんくら】と彼らはアパートで共同生活。
まだ離婚は成立していない。
後、慰謝料問題が残っていると聞く。
どちらにしても、今回は自分たちで尻ぬぐいすること。
冷たいけれどそう言った。

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その年の夏休みのある日
弓彦と薫子はふたりの子供を連れて小さな旅に出た。
親たちのわがままに振り回されて
小さな心を痛めているだろう子供達。
薫子は、また血のつながりのない家族が増えた。
いつか、親のない子を引き取りたいと思ったけれど・・・
【ぼんくら】は今、人の子を育てようとしている。
巡り合わせ?なんだろうか・・・
彼らの子供はくったくない笑顔で大空を見上げる。
旅路の夜空に大きな花火が上がった・・・

 

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