タイトル

暴風雨

思いがけない春の暴風雨に見舞われた。
もう三年前になる・・・
深夜の電話は良いことはない。
11時、もう休もうかと思っていた矢先
ベルは鳴った。
「京都の○○です、**君(長男)が昨日から行方不明です。
こんなに遅く申し訳ありませんが、親御さんにご連絡をと・・・」
青天の霹靂とはこういう事を言うのだろうか?!
何がどうなったのか、どうやって電話を切ったのか
何も、覚えていない。

歯がガチガチ鳴った。
体は小刻みに震えている・・・
何があったの?
どうなったの?
やっとの思いで、寝ている末っ子を起こした。

「兄ちゃんが行方不明やって・・・」
急に涙がボロボロ溢れてくる。
「母さん、父さんに連絡!」
弓彦は夜勤だった、恐らく今は、仮眠中・・・
弓彦も深夜の家からの電話は変だと思ったらしい。
薫子の話を聞くと「なるべく早く帰るから、今夜は寝ろ。」
そう言って電話を切った。
寝ろと言われも寝られるものではない。
体は小刻みに震えたまま・・・   
いつでも飛び出せる準備をと、バックに荷物を詰め始めた。
明日の朝帰るはずの弓彦はそれから
幾らもたたないうちに家の前に車を止めた。
家の中のありったけのお金と、郵便貯金通帳を押し込むと
ふたりは深夜の高速道路に飛び乗った。

母にも事情は話したけれど「あぁ、そうか・・・」
それだけだった・・・
そう言えば、薫子が中二の時 学校で 【過呼吸症】で倒れた。
そのとき、家にいた祖母は 自分の体が自由にならない
寝たきり老人になっていたのに、自分の財布を握りしめて言った。
「これ持って、早う行ったり!」
母はやっぱりお化粧をして、服も着替えてた。
ふと、そんなことを思い出した・・・

ライン

深夜の高速道路を飛ばして京都に着いたのは朝の三時。
何とかコンビニで近くの警察署を聞くと
とりあえず、身元不明の行方不明者がいないか聞いた・・・
事情を聞くと、深夜にもかかわらず丁寧な対応。
それらしき人物はいなかった。
成人が自分の意志で失踪した場合警察は捜せないことも知った。

車中でふたりは色んな想像を巡らしては見るが・・・
こんな時、良い方向には向かない。

朝5時になるのを待って、店のご主人宅のチャイムを鳴らした。
申し訳ない気持ちで頭を下げた。
最近仕事にも身が入らず、寮もかなり汚れているらしかった。
【生活の乱れ】 もうずいぶん前かららしい。
便のないのは何もないからと高をくくっていた薫子。
思わぬ墓穴だった。

すっかり肩を落とし、寮に向かった弓彦と薫子。
しかし、驚いたことに長男はいた。
いないはずの彼は携帯の電源も切って
ある意味で隠れていた?!
通勤用のミニバイクは近くのスーパーに置かれていた。
「なんしに来たん?」
それが彼の第一声。

安堵するやら、腹が立つやら・・・
けれども何かある・・・
弓彦は自分ははずれるから
薫子に長男と話せと言って出て行った。   
確かに部屋はゴミだめ状態。
これを片づけるだけでも有に3日はかかろうと思った。

薫子にはひとつだけ不安があった。
よもやとは思うけれど・・・
それは《サラ金》
双子のどちらも言った、「母さん、兄ちゃんきっとサラ金借りとう。」
でも、それだけは、絶対だめだと念押ししてあった。
不安はあったけれど 、この時点ではまだ信じていた。

部屋の掃除をしながら、色んな話をした。
仕事が面白くなくなってきているのも確かだった。
きっと、弟弟子の方が一生懸命で
仕事にたいする情熱も上なのだろう。
自ずとご主人達の対応の差も出てくる。

しかし、それだけではないはず・・・
どんな答えが返って来るにせよ、問いたださなくては。
こんな時「サラ金からお金借りてないで?」と
問えば、絶対本当のことは言わない。
「サラ金借りとうだろう?! 幾ら借りとう??」
そう面と向かって言葉を投げ出すと
驚くほど素直な答えが返る・・・

「約200万・・・」泣くじゃくる長男。
「・・・・」言葉にならない薫子の声。
頃は桜が爛漫の京の都

それでも、この時まだ薫子は親ばかだった。
弓彦に、事情を告げると
郵便局でお金を引き出し精算した。
「ほんまに、これだけやな」と何度も確認を入れる弓彦に
「うん」と頷く・・・

お店のご主人にもこの件は話さなかった。
職場でのやる気のなさの原因を話して
そのまま預けるつもりだった。
部屋の片づけにもう一度、日を置いて掃除には来たけれど・・・

何もかも片づいたと思っていたとき
ある書類が目に付いた。
それは掃除の時に出てきたもの。
薫子はみんな持ち帰っていた。
幾ら計算しても【200万円】では済まない。

勤務中の長男を呼び出した。
明るい声の長男、薫子は詰め寄った。
そして、ついに白状した・・・・
思わず泣きながら言った。
「親孝行してくれとは言わないけれど
親不孝しないでよ!!」半ば絶叫の薫子。
弓彦に替わった電話口で
残りの【300万円】を告げた・・・

このとき破産宣告をさすことも出来たかもしれないけれど
弓彦と薫子は母の残したあばら屋の
建て替え費用をすべてはたいた・・・
決して簡単にはたまらなかったお金。
そして数日後、無条件帰郷させた。

弓彦と薫子は数日間何度も思った
こんな時亡き母なら何と言うだろうと・・・
そう・・・きっと、こう言った。
「しゃあないな、この世のことはこの世で解決するよ。
誰の子でもない自分の子だよ・・」と。

何に使ったかは今でもはっきりはしない。
身分不相応なナイトクラブに
行ったことだけははっきりしている。
ほとんどが自転車操業の借金?!
お店にこそご迷惑をおかけしたけれど
(突然退職という結果になった)
表沙汰にもならず済んだ・・・

ライン

それ以後、薫子は長男のことを【ぼんくら】と呼ぶ。
そして彼は一年後、またとんでもないことをしでかす。
いったい、弓彦も薫子も彼にどんな背中を見せていたのだろう・・・


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