タイトル

アルコール依存症

 

世界中にアルコール依存症で苦しんでいる人・・・
何万人いるだろう?
そしてそのために苦しんでいる人はその何倍も。
「アル中」そうなんだよ、
言葉は変わったけれど、中身は替わりはしない。
そして、恐らく死ぬまで回復は・・・

   ライン

弓彦の父、つまり薫子の舅は養子だった。
薫子の時のように子供の時にというのではなく
結婚による婿入り。
深くは聞かなかったけれど・・・
戦後、若い男女は選り好みなんって
できない時代ではなかったか?!
戦争から帰ってみると
あらゆるものが様変わりしている。
我が家に帰ってもそこは食糧難。
居場所がない、肩身が狭い。
田舎に養子の口がある、
姉さん女房だけれど・・・

きっと、選択の余地などない結婚だった。
母(姑)は父親の顔を知らない末っ子だったけれど
年の離れた兄が親代わりとなって
家と分け地を貰っていた。
その代わり年老いた母(姑の母)を引き取った。

家があるだけでも良い。
風呂敷1枚で養子に入った父。
それから薫子に出会うまでどんな生活をしたのか
直接、父からは聞かなかった・・・
ただ、母も弓彦もそう父を褒めなかった。
仕事をしない・博打をする・女遊び・・・etc
飲む・打つ・買う
三拍子そろっているの?!
けれど薫子のまぶたに残る父は
所在なさげに下着姿で玄関脇に座ってたばこを吸っていた。

出会う前の父は知らないにしても
弓彦と結婚してからの父は
病みがちの、気の弱い人だった。
以前はブルトーザーに乗って建築現場で働いていたと言いながら
もうすでにそんな仕事をする体力は残っていなかった。
まだ、50歳代半ばだったけれど・・・
時には「ど養子のくせに!」
そんな母の声が肩越しに聞こえてくる。
今の時代なら、「ご養子様」なのにね、お父さん。

そんな父が近所の酒屋に朝夕あるいはお昼も・・・
5勺のコップ酒を飲むようになったのが
いつからか薫子は知らない。
そう深酒をするわけでもなく、すぐ寝てしまう父。
しかし確実に父の体を蝕んでいた。
そしてそれに気付いていたであろう医師さえ
最後まで「アル中」の診断は下さなかった。
あるいははっきりと本人に、
告げていればまた違ったかもしれないのに。

それは突然やってきた。
「外から誰かが盗聴しよる・・・」
そんな言葉が父の口からで始めた。
カメラを持って何かにシャッターを押したり
双眼鏡を買ってきたり・・・
まだ、それでも信じていなかった。
母への嫉妬が日増しに濃くなってきた。
「男がおる・・・」
そんな年代じゃないよ、お父さんと心で言ってみる。

その頃薫子は3kmほど下(しも)の
スーパーマーケットにパート出ていた。   
母は例の弟の借金の返済のための仕事をしていたが   
同居し始めて、一切の生活費は弓彦と薫子が負担した。
父と母・弓彦の家族 、総勢7人。
始末をしてもそれなりの費用はいる・・・

ある日、蒼白な顔をした母が仕事場に飛び込んできた。
「お父さんが、恐ろしい・・・逃げてきた」
薫子は驚いた・・・
けれど、父は薫子にはなにもしない。
そんな確信が薫子にはあった。
「すぐ帰るよ!」

家に帰った薫子は、《眼》が違う父を見た。
殺気だった、他人のような《眼》だった。
手には錐のようなものを持っている。
「おかあはんを殺す・・・」   
「お父さん、それね、私にちょうだい。
お父さん疲れているのよ。休んだら?!」
何度か問答の末、父は薫子に手渡した。
例の医師が来て、睡眠剤の注射をして帰った。
結局、それからもそんなことの繰り返しだった・・・

その日、弓彦が家にいた。
錐だったか、小さな包丁だったかよく覚えていないけれど
また振り回しだした父。
取り上げようとした弓彦と格闘になった。
もちろん若い弓彦が押さえつけて、言った。   
「おまはんはアル中じゃ!」
このとき父は一瞬正常に戻った。
「わしがアル中なもんか、ようけ(たくさん)飲んどらんわ」
「ほな、病院へ行って確かめんか!」
「おぅ、行ったるわ!」 売り言葉に買い言葉。

そのまま父を車に乗せて走った。
いつも行く医院じゃなく・・・精神科へ
診断はそのまま入院 、「アルコール依存症」
鍵のかかった病室、同じような患者。
元々気の弱い父はここで数ヶ月過ごしたことが
かなりショックだったはずだ。
けれども・・・
退院しても一ヶ月が過ぎると
また、酒屋に足が向く。

ライン

狂った父が時折元の父に戻るときがある。
「生まれ変わっても、おかあさんと一緒になる」
確かにそう言ったのよ、お母さん。
「あんな人と絶対今度は一緒にならん。」
そう口癖だったお母さん。
でも薫子には、お父さんそう言ったのよ。
そのときの何とも言えない微笑み
とても幸せそうでしたよ、お父さん。
夫婦の縁って他人じゃわからないものね。

弓彦も今度生まれかわったら   
こんな苦労はしたくないから・・・
薫子とは一緒にならないと公言する。
でも、どこにいてもきっと捜してよね♪
私にはあなたしかいないから・・・薫子

  

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