タイトル

心の老い & 体の老い

これは誰にでも避けては通れない道。
少し、時間が遅いか早いか・・・
それでも、人によってはずいぶん違いがある。
ただ、願わくばどちらも出来る限り遅いに越したことはない。
その気持ちとは裏腹に50歳を超えると
断りもなくじわじわと忍び寄る・・・

   ライン

母(養母)は今年86歳になる。
その皮膚のつやと顔を見れば
その歳をあてる人は多分いないだろう。
そして内心、これこそが母の自慢。
「綺麗なぁ〜って言ってくれる。」
言わば、これが彼女の生き甲斐なのかも。
今でも、化粧をする・・・
悪いとは言わないけれど、それは30年前のままの化粧
グリーンのアイシャドーとピンクの口紅。
薫子は密かにおぞましいと思う・・・

子供の頃、美しい母を自慢に思った。
かすかな化粧の移り香が子供心に揺らいだ。
けれど、今。
顔にしわのない母を見ると・・・
なぜか腹立たしい。

そして、世間の化粧っ気のない老婆
その顔に寄った穏やかなしわを見ると
安堵の気持ちになる・・・

いったいこの心の変化はなぜなのだろう?
それは薫子自身が母となったからかもしれない。
≪妻≫と≪母≫
そのどちらを優先するか・・・
薫子は迷うことなく≪母≫を取った。
≪妻≫を捨てたわけではないけれど
許される限り≪母≫でいた。
自分への投資は最低限度だった。

恐らく母は死ぬまでこのままの状態で行くだろう。
もしかしたら・・・
≪母≫ではなくて≪女≫として・・・

「みだしなみ」としての化粧。
医者に行くときでさえ
その準備が出来ないと動かない。
何のための医者?と薫子は首をかしげる。
そして下着まで・・・
ブラジャー・ガードル
あなたにはまだそんなものが必要なの?

薫子自身はほとんど素肌に近い。   
同居し始めた頃母は薫子に言った。   
「ちょっとお化粧しなよ。」
苦笑いで通り過ぎた薫子。
変なものね、
あなたがすればするほど私はしたくなくなる。
そして私はすべて無香料。
なるべく年代にあった化粧をと心がける。

高齢化社会になるにつけ
もう少しそちら向けの開拓もして貰いたいような・・・
年齢にそった、美しさを見つけたいと思う。
真っ赤・ピンクの口紅は老人には不向き   
ほとんどなくなった髪に
真っ黒な毛染め・パーマをあてる母
『私なら毛染めなんってしない、ショートカットね! 』
そう思う薫子はおかしいのだろうか?!

けれども・・・
母の心は老いていないのだろうか?
う〜ん、それも疑問に思う。
とにかく、自分の身内の話ばかりしたがる。
自分の両親・兄弟姉妹・・・
しかし気の毒なことにそれを聞く人はいない。   
薫子でさえ知らない人たち。
その割に話さない父(養父)とその身内。

過去ばかりを追い求めているような気がする。
自分が恵まれていた時代?
今の現実は彼女にとっては虚構の世界なのだろうか?
家族になれない母
いつしか薫子の息子達でさえ話をしなくなった・・・
「ジィちゃん(養父)の思い出」は たくさんあるのに。

あるいは母は心の老いを認めたくなくて突っ張っている?
ふと思った・・・
外に向けては『何でも自分で出来る』
その言葉通り、一応は何でも自分ではする。
ただ・・・
「なにも出来ないのよ、みんな世話になっているの。」
そう言う老人の方が何と可愛いだろう。
自然手を添えたくなる。   
母の場合は出しかけた手が引っ込んでしまう。
そしてますます孤立して行くのだろうか?

ライン

母に限らず体の老化は薫子にも襲ってくる。
母は、長年の関節膝変形症と痛風で痛みも著しい。
だからといって食養生はするわけでもない。
けれども、こればかりは命の潰えるまで
お付き合いして貰うしかない。
元々好き嫌いの激しかった母は
高級魚以外は魚は食べない。
恐らく節制はこれからも彼女にとっては難しい。

二年前、薫子は椎間板ヘルニアで全く歩けなくなった。
MRIの所見の結果、手術を勧められた。
しかし、重症のヘルニアに
なってしまっていたことが返って幸いした。
保存療法が効果をそうしたのだ。
右足のふくろはぎの猛烈な痛み、
親指のしびれがなくなった。
ほんの数歩しか歩けなかったのが
今ではほんの少しのジョギングなら出来る。   
無理をしなければ、日常生活が出来る。
自分の足で歩く、この単純なことに
限りない感謝の念を持った。

そして、この入院中・・・
母は一度も薫子の病室を訪れることはなかった。
毎週のように自分は通っていたけれど。

さて、つい母にたいする愚痴が増えるのは・・・
薫子自身《心の老い》かもしれない。
どこにも持って行きようのないストレスの掃きだめに
母を愚痴っているのかも(苦笑)
こんな事じゃいけない、もっとおおらかに
そう思う心の反面、愚痴のかたまりがどこからともなく湧き出る。
時折【神様】にも愚痴ってみる。
『神様、そんなにどんどん荷物を落としてくれたって
もう背負い切れません。捨てていきますよ♪』って・・・


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