タイトル

捨てられしもの

小学校の低学年のある日、
薫子は子猫を数匹拾った。
「ミャー・ミャー」泣くこの小さな生き物が愛おしかった。
家にも猫がいるからきっと置いてもらえるよ♪
そんな単純な発想から子猫を胸に拾い上げた・・・

けれど・・・
思いもしなかった祖父の言葉に出会った。
「捨ててこい! 出来なかったらジィちゃんがこうしてやる!」
薫子の手から子猫達を奪うと・・・
そのまま、家の横を流れていた川に放り込んだ。
「あっ!」
薫子の声にならない悲鳴。

幼い薫子にはもうどうすることも出来なかった。
「ごめんね、ごめんね。私さえ拾わなかったら・・・ 」
泣きながら、川下に流れていく子猫を追った。
誰も助けてくれる人はいない。
結果的に自分の短絡的な考えが子猫の命を奪った。

その後、薫子の家には犬も猫もいたけれど
心のどこかではあの日のあの場面は消える事はなかった。

ライン

自分の出生を知ったとき
心のどこかで『捨てられしもの』という言葉がよぎった。
大人達の選択は決して間違ってはいなかったのだろうけれど
やはり自分は捨てられたのだ。
そう囁く自分がどこかにいた。
いくら違うよ!と声を上げても、その声はまた聞こえてくる。

養父母だって、実の親に負けない愛情を注いでくれたのに
理屈では解っているのだけれど
現実の心の中はよどんだものが渦巻いていた。
だからといって、
自分で環境を替えるなんって事も出来ないのに・・・

弓彦と結婚をしたとき
薫子はいつか親を亡くした子を引き取りたいと思った。
養父母がしてくれた事への恩返しのつもりで・・・
しかし、現実には我が子だけでも精一杯。
まして我が子でもひとりの人間としては心も読めない。
子供を育てることの責任の重大さを痛感した。
比較的、近所でも評判の良い息子達でさえ
他人様に話せないような問題をおこした(長男)

弓彦の家には犬はいたけれど猫はいなかった。
それも子供達が高校に上がるまでは   
母が猫が嫌いと言うこともあって絶対飼えなかった。   
ところがある日、母は猫が嫌いというわけではなく
上・下の区別が付かないのが嫌だと言うことが解った。
ヒマラヤンの雑種を貰ってくれないかと言われたとき
つい『ヒマラヤン』という言葉に揺らいだ。
それが13匹の猫の歴史の第一歩。

ヒマラヤンの友達にとペットショップで
里親を捜していた子猫を貰ってきたのは、弓彦。
ここまでは薫子達の意志で飼いだした猫。
でもそれから後は・・・
『捨てられしもの』

決まって、兄弟で捨てられる。
交通事故にあったり、人気のないところに置かれたり
家の前に息絶え絶えで倒れ込んだ猫。
真夏に米袋に入れられて生後2週間足らずで捨てられた子達。
今薫子と暮らす猫の大半は そんな猫たち。

心のどこかで、自分とだぶる・・・
薫子の深淵はぬぐい去れない過去とまた巡り会う。
せめて、猫たちだけでも住処を
遠いあの日の記憶から自分が責任 持てるようになったら
何とかしてやりたいと思った。
それにしても13匹は多すぎるのだけれども(^^;)

弓彦の心の中にも薫子の気持ちは充分すぎるほど流れていた。
薫子のことを<薄幸>と呼べるかどうかは問題だけれど
ただ、親子の縁の薄いとは思っていた。
『幸せにしてやりたい』
弓彦はそう思っていた。
そして、捨て猫・犬が薫子自身とだぶらせていることも知っていた。
もう一つ、最大の原因は・・・
弓彦自身が、口は相当悪いのだが   
芯は誰よりも温かいことにあった。
関わってしまったら・・・もう捨てられない。

今では4匹の犬・13匹の猫・セキセイインコが2羽
そして春になるとやってくるツバメ達。
何ともにぎやかな弓彦と薫子の家。
母の残したあばら屋はそのままだけれど
誰に遠慮もいらない自分の家。
ここは・・・
『捨てられしもの』の館?!


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