タイトル

原っぱ

いつの頃から子供達は外で遊ばなくなったのだろう。
ふとそう思った・・・
薫子自身は戦争は知らないけれど
子供時代はそこここに戦争の爪痕があった。
街角では傷痍軍人と呼ばれる人が
白衣・軍人帽をかぶって
悲しげなバイオリンを弾きながら
物乞いをしていたこともあった。

けれども、子供達はお構いなしに
学校から戻ると遊びに明け暮れた。
おもちゃと呼ばれる物はほとんどなかったけれど・・・
彼らは遊びの天才♪
チャンバラ・メンコ・ケンパ・かくれんぼ・ゴム跳び・陣取り
果ては探検隊・・・
男の子も女の子もほとんど同じ遊びだった。
ガキ大将が必ずいて 、少々危ないこともやってのけた。
夕暮れ時には必ず帰っていたし
親が捜すなんって事はまず無い。
子供が家にこもっているなんて親にとっては迷惑千万。
まずは「外で遊べ〜〜!」だった。
勉強?そんなものしたっけ?!
そうそう、宿題が、やっと(笑)
男の子は女の子のを写していた。
そんなことが日常茶飯事。

最近、子供達はどこにいるのだろう・・・
そういえば深夜、塾帰りの自転車の話し声が   
寝静まった闇に聞こえる。
こんな田舎でも・・・
可哀想・・・本人達はそうでもないだろうけれど。
何かを忘れている、そう思うのは薫子だけだろうか?!
細面の少年少女が増えて   
およそ逞しいとはかけ離れている。
もちろんなにがしかの
スポーツに熱中している彼らもいるのだけれど。
何か箱庭の中で決められた課程を進んでいるような
そんな感じがしてならない。
もっと自由な空間、もっとのびのびした時間
そんな物があっても良いんじゃないだろうか?

ライン

最近犬の散歩道に広大な原っぱを見つけた。
大げさなとお叱りを受けるかもしれないけれど
間違いなく広大だと、薫子は思う。
ここは某製薬会社が買い上げた
『山』という表現の方が正しいかも。
高台は二段状の大きな原っぱ
眼下には○○平野が一望できる。
東は県庁のある市内、
西は恐らく一時は高校野球全国区になった**まで見渡せる。
元々ワイナリー工場を建設するために買い上げたが
この辺のブドウの糖度が高すぎて計画は消えた。
もう10年以上荒れ地のまま。
年に何度か下草を刈りに来るだけで放置されている。

本来は立ち入り禁止だと思う。
入り口には一応鎖がひかれているし・・・
いわば他人の土地だから。
犬に誘われて、そこをくぐったとき
あまりの広大さに言葉を失った。
と同時に何もない原っぱの新鮮さに何とも言えぬ感動を覚えた。
こんな空間・・・そう、忘れてしまった子供時代の
あの懐かしさがそこにあった。

今時の子・・・
こんな素晴らしい場所が、こんなに近くにあっても
誰も寄りつかないんだね。
他人の土地には入ってはいけないから?
ううん、それ以上にこんな場所はきっと未知の世界。
もし、もし・・・
ここに連れてきても遊べないかも。
車で数分行けば、この地域にも
○○ランドと呼ばれる自然観察山のようなのがある。
けれどもそれは人が作った施設。
やっぱり・・・箱庭。

ここで4匹の犬を放してやると・・・
まるで人間のような現象が現れる。
一番新入りのCiro
まだ引き綱に2ヶ月ほどしか繋がれていない彼は
ここに来ると自由のうれしさに飛びはねる。
思いっきり走ったり
チョウチョを追いかけたり
時には雉を見つけたり、遊ぶことには事欠かない。
そして他の犬(特にボク)を誘う。
雨水のたまりやちょっとした小さな沼地まである。
野の花は咲き乱れ、黄色や白・緑の絨毯。

そしてボク。
彼は我が家で生まれた。
猫の額の庭で小さい時を過ごし
初めての散歩から引き綱に繋がれて行った。
つまり彼にとって引き綱なしの外は実は怖い。
途中、何かの都合で引き綱を離してしまうと
彼はそこで制止して座ってしまう。
そんな彼がこの原っぱに初めて出会ったとまどい。
最初は薫子達の側で座って動こうとはしない。
しかし、「走っておいで♪」という主人の言葉を
理解したかどうかは別として、恐る恐るCiroの後を追う・・・
≪自由!≫それを体で関知した彼はもう迷わなかった。   
Ciroとともに走り出した。

問題児は二匹の老犬
ラッキーとチビ
ラッキーは元々野良犬。
恐らく一度飼われて捨てられたのだと思う。
我が家に来たときすでに成犬だったし
ある意味でこの4匹の中では一番利口な犬だと思う。
ずいぶん逃亡もした(笑)
近年、よる年のせいか逃亡もなく温和しくなった。
万一逃亡しても呼べば戻るようになった。
それでも彼女は彼女なりにこの空間を楽しみ始めた。
跳んだりはねたりはしないけれど
引き綱なしでも散策を楽しんでいるように思う。

そしてチビ
彼女は子犬で我が家に来たせいもあって?
不思議な行動をする。
引き綱を離されると・・・・
何を思ったのか、たとえ主が側にいても
トントコ・トントコ、いちもくさんで家に帰る。
こうなったら、いくら後ろから呼んでも反応しない。
ところが、今回は何とか帰らず側にいる。
繋がれない不安はあるのだけれども
彼女なりの興味が勝っているのか?!
二段状の上の原っぱにものっそり付いてくる。
もちろん主の後から・・・

いつまでここで遊ばせてやれるかどうか解らないけれど・・・
自然の懐で自由に心も体も解き放し
深呼吸出来るこの場所を、犬のみならず
薫子自身も両手をひろげて大空を見上げた・・・


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