タイトル

指輪

弓彦と薫子の出会いは小さな川が
お互いの山々の支流となって本流を目指すように加速していった。
その先には大海原という
とてつもなく大きく果てしない航海が待っていた・・・
けれども、ふたりは今
おとぎ話のまっただ中にいた。
人はきっと誰にでもいつかは巡り会う人がいる。
そう信じて疑わない薫子だった。

健吾やその母(後の姑)の勧めもあって
二ヶ月後には正式婚約となった。
このとき薫子はたったひとつ
少女の頃から温めていた夢があった・・・
エンゲージ・リング
もし・もし・・・手にすることが出来るのなら
薫子には欲しい『宝石』があった。
『ダイヤ』?
ううん、そんなまばゆい高価な宝石は薫子には似合わない。
1月生まれの薫子は本当は赤い『ガーネット』
これも、そう高価と呼ぶほどではないけれど・・・
薫子が欲しかったのは2月の 『アメジスト』

【赤毛のアン】のマリラのブローチ
それが『アメジスト』だった・・・   
子供の頃、≪かがやく湖水≫に沈んだかもしれない
マリラのブローチにどんなに胸をときめかしただろう。
そして、≪アン≫ほどではないにしても
自分の出生を知ったとき   
果てしなく≪マリラ≫に憧れた。
もしかしたら・・・薫子は
≪マリラ≫に実の母の面影を見たのかもしれない 。
キラキラ輝きながら≪かがやく湖水≫に
沈んでいく場面を想像してはため息をついた少女時代。
物語の中では湖水に沈むことなく次の日、出てくるのだけれど。

いつか、孤児のアンを引き取った
マリラのような心優しい母になりたい。
それを薫子はエンゲージ・リングに託した。
この思いは口に出すことはなかったけれど
弓彦は薫子の夢を叶えてくれた。
薫子の細い指には不釣り合いなほどの
大きな石のアメジスト。
密かに薫子は思っていた。
いつか・・・
この指輪を≪マリラのブローチ≫にしようと。


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