タイトル

出会い

約束の駅前・・・
薫子は≪健吾≫を待った。
そこに二台の車が滑り込んだ。
前の一台からは ≪健吾≫が・・・
いつもの背広姿ではなく、
最後の荷物作りの途中かラフな普段着。
急いで車から降りた≪健吾≫は
「後ろ兄貴。よろしく! 
兄貴、免許たくさん持っているから食いはぐれはないと思うよ♪」
「じゃ!」という一声を残して≪健吾≫は去った。

ゆっくり後ろの車から降り立った≪弓彦≫
その姿を見た薫子は思わず『アラッ!』と笑ってしまった。
≪健吾≫の結婚式で会った≪弓彦≫とは別人がそこにいた。
がっちり型の≪健吾≫よりもほんの少し丸みがあった。
「ずいぶん変わられたのね。」薫子の第一声。

とりあえず、駐車場に車を預け近くの茶店に入った。
座るなり、≪弓彦≫は「遊びでつきあうつもりはないから・・」
そういった。
誠実な人なんだ・・・
そのとき、薫子の心の中で何かがはじけて消えた・・・
まだ薫子自身気付いてはいなかったけれど
それは・・・≪トオル≫への心のシャボン玉。
いくら封印をしてもいつの間にか飛び出してきていたシャボン玉。
そしてこの日を境にして二度と薫子の心に舞うことはなかった。

一通りの自己紹介が済んだ。
≪弓彦≫の体格が大きく変わったのは『結核』だった。   
そういえば・・・「兄貴、入院している・・・」
そんなことをいつか≪健吾≫が言っていた。
みんなで遊びに行った帰り、洗濯物を取りに寄ったこともあった。
もちろん薫子達は車内で待った。   
一昔前なら、嫌われるこの病気も今では的確な治療で完治する。
薫子自身小児結核という、今は健康保菌者であった。
≪弓彦≫は恐らくこのことが一番気がかりだったのかもしれない。
「早めに治療で治って良かったですね。」
薫子は笑顔で応えた。

今度は薫子が話す番だった・・・
遊びでつきあうつもりはないと言った≪弓彦≫
ならば隠しておくことは出来ない。
薫子の友人で薫子の出生について知っていたのは
晴ちゃん・トオルのふたりだった・・・
でも、今薫子の目の前にいる
青年には話しておかなくてはいけない。
≪健吾≫さえ知らないこのことを
≪弓彦≫はどう受け止めるだろうか?!

運命の人になるかどうかは解らなかったけれど・・・
薫子は話したことに悔いはなかった。
そして、このことは薫子にはどうすることも出来ない
自分自身に科せられた『運命』だったから・・・

ここでは、詳しくは書かないけれども
≪弓彦≫の職業は地方公務員ではあるけれど・・・
危険と隣り合わせの職業だった。
その上、当時の公務員のお給料は
今では想像も付かないほど低賃金だった。
ボーナスとくれば・・・
薫子の・・・女子社員の薫子の方が多かった。
今でこそ公務員と名が付けば重宝がられるけれど
バブルまっただ中ではまだまだ日陰の身であった 。
かくしてふたりの出会いの日が暮れた・・・


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