タイトル

不倫の走り?

≪弓彦≫との出会いの前に・・・
笑って話しておきたいことがある。
そう、晴ちゃんじゃないけれど
薫子ももう少しでひとりの小父様
不倫と呼ばれる小舟に乗るところだった。
誰にも話さなかった、とっておきのロマンス?
・・・と、まぁもったいぶるほどのことではないけれど
晴ちゃんの気持ちがほんの少しわかった何週間。

薫子の第二の職場の販売課長・・・
上役と称する人はほとんど単身赴任だった。
40代から50代の一番仕事に脂がのった頃
また彼らの子供達も高校・大学と大切な時期。
当然、父親に付いてくることはない・・・
そんな単身赴任の多くはきっと不倫の温床となる。

きっと、小父様達は独り身の淋しさから話し相手が欲しくなる。
ひとり酒場で高いお酒を飲まなくても
職場にはたくさんの女子社員がいる・・・
噂は前々からある人だった。
でも、誰ひとり確かめたわけではない。
最初は事務職の何人かが残業をしていると
帰りに食事をおごってくれた。
そのうちなぜが、薫子に「今夜食事どう?」 と誘うようになった。
ちょっとリッチな食事を戴いて、家まで送ってくれる。   
そんなに悪い条件じゃないよね。
何度かそういう誘いがあった後、
バッティングゴルフに日曜日誘われた。
ゴルフ自体まだよく知らなかった薫子。   
何人かでするものと勝手に思いこんでいた。
結局、丸一日ふたりきりでの行動になった。
その時初めて薫子の心に『ん?ちょっと変だ・・』
黄色の危険信号が点滅した。

その日薫子の家を通り越して小父様のアパートに着いた。
もうこれは赤信号!
薫子は意を決してそこを飛び出した。
車で後を追ってこられないように・・・
小さな路地ばかりを歩いた。
初めて歩く道だけれども、まだ時間が早かった為に救われた。
いつものバスターミナルに着くまで小一時間歩いただろうか?!
結果的に何も起こらなかった。

翌日、小父様は出社した薫子に小さな声で囁いた。
『捜したんだよ・・・』
薫子はにこっと笑った。
「昨日は有り難うございました。」

もちろんこれで、薫子の不倫の走りはお終い。
ただ・・・薫子は思った。
世間に不倫と呼ばれるものはたくさんあるけれど
ちょっと淋しい人がほんの話し相手に始まる遊び。
悪気は本当はないんだ・・・
たったひとりの何もない冷たい部屋より
やっぱり温かい部屋と家族の会話。
それが自然なんだ・・・

小父様事販売課長とはその後上司として
節度あるお付き合いだった。
二度と不倫の小舟は現れなかった。


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